オークボアツコの「筋肉豆知識」

オークボアツコの「筋肉豆知識」

番外編その一:骨盤底筋群

さて、「筋肉かるた」に採用された45の筋肉を取り上げてきたこの連載。あと数回、個別にリクエスト頂いた筋肉などを取り上げていきたいと考えております。では、早速。このたびのテーマは「骨盤底筋群」(画像は「筋肉トランプ」より)。高齢社会となった現在、一般的にも耳にすることが多くなったなと感じます。骨盤底筋と最も関連付けて話がなされるのは、加齢などに伴う「尿もれ」です。

テレビのCMなどで、尿もれのケア用品(パッドなど)をお見かけになること、ありますよね。特に女性用のケア用品が多いのは、例えば日常、くしゃみをしたときなど(腹圧が高まったとき)に失禁が起こりやすいのが男性より女性だからです(腹圧性尿失禁)。これは、男性の尿道は約20cmと長く、水道の配水管のようなS字カーブ状であるのに対し、女性の尿道は3~4cmと短く、しかも膀胱から真下に真っ直ぐ下りる形をしているため。体の構造的に、女性の方が尿もれが起こりやすいということなのですね。(ちなみに、尿失禁には他にも様々な原因、タイプがあります。腹圧性でない尿失禁や頻尿の状態があるものを総称し「過活動膀胱」といいます。40歳以上になると、男女ともに8人に1人の割合でこのような症状があるようですよ。それを思うと、日常的に使える尿ケア用品って、女性用だけでなく、男性用だってもっと需要があるのかもしれないですね。)

さて、それでは、膀胱の位置を考えてみましょう。下っ腹のあたりにあることは想像できますよね。つまり、骨盤のなかに収まっているわけです。骨盤(pelvis)はもともとラテン語で「たらい」という意味で、このたらいの中に膀胱や直腸(女性は子宮もですね)、大切な臓器たちが収まっており、そのたらいの「底」になっているのがまさに今回の「骨盤底筋群」なのです。構成メンバーは深会陰横筋、尿道括約筋、肛門挙筋、尾骨筋といった筋たちで、これらが重なり合いつつ「底」となり、内臓を支えています。ただ、完全に閉じた蓋では排泄も排尿も出産もできませんので(笑)、尿道・肛門・膣が通る隙間が開いています。普段は骨盤底筋群がしっかり収縮している状態なので、これらの隙間が閉じた「底」の状態が保たれているのです。

したがって、出産のときに産道が押し広げられた影響(外尿道括約筋をはじめとする骨盤底筋群が損傷される例も多いようです)や、加齢の影響などで骨盤底筋群の筋力が低下してくると、この隙間をぎゅっと閉じておくことができず、ちょっと腹圧が掛かった拍子に押し出される尿の力に抗することができなくて尿もれが起こってしまいます。また、普段はかたく締まっているはずの尿道周囲の筋力は、女性ホルモン(エストロゲン)の影響を受けることもわかっています。女性は月経周期によって体内の女性ホルモン量が変化しますが、エストロゲンの分泌量が少なくなる月経期間中、またその分泌がほとんどなくなる閉経後には、尿道周囲の筋力が低下するため、余計に尿もれが起こりやすい状況となるのです。う~ん、仕方ない仕組みとはいえ、難儀なものですねえ。

また、言ってみればこの「底」、硬い骨組織でも丈夫な靭帯でもありませんので、イメージとしては内臓を乗せたハンモックのような感じです。したがって、しっかり収縮するだけの筋力が衰えてくると、内臓の重量に負けてしまうことも起こりうるのです。特に女性では、ひどい場合「骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)」と言って、産道へ向かって臓器が飛び出してきてしまう子宮脱(子宮下垂)、直腸脱、膀胱脱、尿道脱といった状態が起こりうるのです(男性の場合、肛門から直腸が脱出してくる直腸脱がありますが、これは区別されます)。これは困りますよ。飛び出してきた臓器は、排泄のたびごとに手で押し戻したりしなければならず、他者にもお医者さんにも相談しにくい悩みとなります。

また、「底」がしっかりしていないということは、排便の際などに腹圧を上げていきもうとしても、底がデローンとしていては腹腔内の圧力も高めきれませんよね。つまり、便秘がちの人には排泄がしにくくなるというデメリットもあるわけです。

普段あまり運動量が多くなく、全身の筋力にあまり自信がなく、座り仕事が多いという方、たとえ男性であってもお気をつけ下さい。排泄・性生活(おおまかに言って‘シモの部分’の話)は、人間らしい尊厳を保つために最後まで自力で何とかしたい事柄ではないかと思います(わりと賛同が得られると思うのですがいかがでしょう)。目に見える部分の筋肉だけが重要なのではないのです。ひとつ、今からじっくりと骨盤底筋群のトレーニングを日課にし、QOLの‘底上げ’を狙おうではありませんか!

骨盤底を下から見上げると、肛門で一回り、尿道と膣で一回りという8の字型になっています。ここの筋を使うこと、あまり意識したことがなく難しいと感じる初心者(日本人には多いです)は「尿道と肛門をギュッと締める!」ことから始めましょう。おしっこを途中で止めるイメージです。座っていても立っていても仰向けでもできますし、人にもバレませんから、思い出した都度ごとにどうぞ。5秒ギューっと締めて、5秒ゆるめる。10回程度くり返すと、結構疲れてきますよね。慣れてきたら、女性は膣を、男性は睾丸を体内に引き上げるような感覚で行ってみてください。骨盤内に収まっておくべき内臓たちが正しい位置に保たれることで、内蔵の動き自体も良くなりますよ。

骨盤底筋群は、以前取り上げた「腹横筋」や「多裂筋」、そして「横隔膜」と連動して働くことが知られており、これら「コア」を担当する筋肉をまとめて「インナーユニット」と呼ぶこともあります。腕や脚のようながっちりした支柱を持たない胴体部分の安定と固定に関わるこれらの筋肉、個々の筋力や使い方というだけでなく、同時収縮や相反する収縮など、ユニットとして機能的に使えるようにして行くことも重要ということで、近年さらに注目度が高まっている部分です。筋肉マニアの皆様、ぜひご自慢の骨盤底筋を育て上げ、生命力にあふれた人生を送ろうではありませんか!


<プロフィール>

オークボアツコ

1978年3月生まれ。♀
本職は大学講師・理学療法士。その傍ら、絵の製作活動などやっています。
そんな諸々の素性が重なったご縁で、このたび「筋肉かるた」読み札の挿絵を担当させて頂きました。
趣味はランニングと飲酒を少々。筋トレでなく肝トレに励んでいる日々です。

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