オークボアツコの「筋肉豆知識」

オークボアツコの「筋肉豆知識」

多裂筋

本日は多裂筋(たれつきん)。裂けるという字が入っていますが、別に‘非常に裂けやすい’とかの恐ろしい筋肉ではありません。背中の深部で、首から腰にかけて脊椎の左右に存在する筋肉で、2~4個の椎体(脊椎の一つ一つの骨)をまたぐようにつないでいます。椎骨の真ん中から2~4個下方の椎骨の横の突起に向かって走行しているので、全体としては長い筋肉が小さい束状に裂けているように見えることで、こんな名前がついているのでしょう。左右が同時に働くと背骨を後方へ反らす動きとなりますし、右だけが働けば右方向に身体を捻りつつ側屈する方向へと身体が動きます。

身体の深層にある筋肉をインナーマッスルといいますが、この多裂筋、腰痛予防やコア・トレーニングの面からも非常に注目されている筋肉の一つです。多裂筋の形状を観察してみると(かるた参照)、首や背中部分の筋束(頸多裂筋、胸多裂筋)は細めなのですが、腰部から骨盤にかけての筋束は幅が広くなっており、かなり存在感があります。脊椎をたどっていくと、左右の骨盤をつなぐ「仙骨」という骨がお尻の真ん中に存在するのですが、多裂筋はこの仙骨にしっかりと付着し、腰を反らすというかお尻を突き出すというか…専門的に言うと「骨盤を前傾させる」動きに大きく関わります。

とは言っても、背中や腰を反らすときにだけ働いて、あとは休んでいる…なんてことはありません。以前からお話しているように、地球には重力があります。この重力下で、私たち人間の背骨を直立位になるよう筋肉が支え持っているわけですから、脊椎に付着している筋肉は姿勢の安定のため常に30%程度働いている(力が入っている)状態なのです。

また、一般の方にはなかなか伝わりづらいのですが、胴体(=体幹)は腕や脚を動かすためのいわば「土台」の役割を担っています。土台がしっかりしていないとその上の建物も安定しないのと同じで、体幹には安定性が必要なのです。しかも、そこから生えている腕や脚は状況に応じて柔軟に動かなければならない。したがって体幹は、どっしりと固定されていればそれでいいというわけではなく、動きに臨機応変に対応できる、すなわち「動的安定性」を必要とするのです。

体幹の骨、すなわち椎骨がだるま落としのコマのように積みあがった構造体を支える筋を2種類に分類する呼び方があります。表層に位置し、サイズの大きなグローバル筋群(腹直筋、腹斜筋、脊柱起立筋など)と、深層に位置して1つの分節をつなぐように付着するローカル筋群(多裂筋や腹横筋など)。これら両者があることで、柔軟に動きつつ安定性を保つという相反する機能が可能になっているのです。ローカル筋はサイズが小さく筋出力自体は大きくないものの、姿勢を保持するためのセンサーが豊富に含まれていることが知られています。つまり脊椎の位置変化に敏感で、椎骨どうしの分節間の微妙な位置関係をコントロールし、安定性を高める役割があるのです。

さて、ここで、ヒトの胴体部分を水平に横断してみると、背部の多裂筋は「胸腰筋膜」を介して腹横筋とつながり、ちょうど胴体をぐるりと取り巻くコルセットの様な状態を作っています。筋膜、という言葉は初めて出てきましたよね。身体にある筋肉は、その位置がずれてしまわないよう、筋膜というコラーゲン繊維でできたネット状のものに包まれており、ボディスーツのようにぴったりと骨格上に各筋肉を3次元的に固定しています。どこかの筋肉が収縮する際は、それを包む筋膜の網目構造が伸び縮みし(ニットのセーターを引っ張ると毛糸自体は伸びなくても網目構造がゆがんでセーターが伸びるのと同じ)、コラーゲン繊維どうしが滑走することで、筋肉の位置がずれずに収縮できているというわけです。

ヒトの胴体を取り巻くコルセットは、後方が多裂筋、脇腹が腹横筋でできていて、この間が胸腰筋膜という丈夫な筋膜でつながれている…そんなイメージです(ちなみに腹側は腹直筋が収まった腹直筋鞘という硬い膜につながっています)。筋膜自体には収縮力がありませんので、この自前のコルセットを引き締めて腹腔の圧を高め、また脊椎の安定性を上げるのはやはり多裂筋と腹横筋(連動して働くことが多い)。この2つの筋をトレーニングすることにより、腰痛の消失および再発防止が図れるという結果が発表されています。すなわち、骨盤と脊椎の安定性を高めてあげると良いわけですね。骨盤や脊椎の安定性が弱いと、その不十分さを本来ならば違う働きをするはずのグローバル筋が代償しようとして過剰収縮してしまっている場合が多いのです。

腰痛がひどい方、おられますか?ご自身の腰を触診してみましょう。痛い部分の脊椎の左右、筋肉が硬く張ったり、こわばって動きが悪くなっていたりしませんか?本来ならば表層にある筋肉は普段から収縮している必要はないはずですから、柔らかく柔軟性に富んでいる方がよいのです。しゃんと背筋を伸ばしていなきゃ!と意識することはとても良いのですが、「良い姿勢」と聞くと、背中を緊張させ、腰を必要以上に反らせて胸を張る方がいらっしゃいます。これ、実は、表層のグローバル筋ばかり過剰に使ってしまっている状態です。時には腰を丸めるように前屈・脱力して、腰の異常な緊張をリラックスする時間も持ちましょう。椅子に座るときは座面に当たる坐骨の位置を意識し、腰を反らさず骨盤をまっすぐ立てるよう気にしてみましょう。そうすると、腹筋群を含めた体幹部分にも力が入る感覚が分かる方がいらっしゃるかもしれません。正しい姿勢を保つには、身体の表面の筋肉ではなく奥底にある筋肉を使うこと…実感できるようになると、体幹の動的安定性が向上してきますよ。

多裂筋と腹横筋を同時にトレーニングする方法をご紹介しておきます。四つ這いになり、右腕と左脚を水平に持ち上げてキープします。この時、決して腰を反らさないこと。体幹を中間位で保つことを意識し、自分のインナーマッスルに意識を向けましょう。地味ですが、じっくりと自分の腕と脚の重みを体幹で支えます。呼吸を止めず、疲れてくるまでキープしましょう。終わったら反対側も行っておきましょうね。腰痛知らずでいるためにも、美しい姿勢でいるためにも。地道な自主トレと普段の姿勢の意識づけを習慣にしたいものですね。

<プロフィール>

オークボアツコ

1978年3月生まれ。♀
本職は大学講師・理学療法士。その傍ら、絵の製作活動などやっています。
そんな諸々の素性が重なったご縁で、このたび「筋肉かるた」読み札の挿絵を担当させて頂きました。
趣味はランニングと飲酒を少々。筋トレでなく肝トレに励んでいる日々です。

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