オークボアツコの「筋肉豆知識」

オークボアツコの「筋肉豆知識」

番外編その三:筋肉の「萎縮」について

2月になりました。毎日寒い日が続きますが、皆さまお変わりないでしょうか。冷え症や低体温の方には、つらい季節かもしれませんね。ちなみに「平熱」ってどれくらいありますか?1957年の調査によると、日本人の体温は平均36.89℃とのことでした。ただ、ここ50年ほどで、その平均体温がかなり低くなってきているようです(約36.2℃)。

ヒトの体内の酵素(栄養を取り込むときに働く消化酵素など)は37℃あたりで活発に動くような仕組みになっているため、低体温の方はそれだけ体の代謝(必要なものを取り込み、身体を動かし、余分なものを排出するサイクル)がうまく回らないということになります。実際、体温が1℃下がると、基礎代謝は12%、免疫力は37%程度下がってしまうことが知られています。体温が高い方って得しているんですよ、同じものを同じ量食べても、無意識のまま(たとえば寝ている間にも)一割程度余分にカロリー消費できちゃっている。太りにくいってことですね。

体温を上げるだけでこんなお得な効果があるのなら、ぜひ体温を上げたいところ。身体の熱を生みだしているのは何かというと…、そう、筋肉です。体内の熱産生は、実にその6割が筋肉によるものとされています。筋肉量の少ない女性の方が男性よりも低体温となりやすいこともうなずけますよね。

さて、今回は「筋肉が減るということ」についてお話しようと思います。筋肉が減ることを筋萎縮と言いますが、この原因は大きく分けて三種類あります。「①神経が原因のもの(ニューロパチー)」「②筋肉自体が原因のもの(ミオパチー)」そして「③動かさないことが原因のもの(廃用性筋萎縮)」です。

筋肉が動く仕組みを考えてみると、例えば脳から「肘を曲げて力こぶを作れ」と命令が出れば、その命令は電気信号という形で脊髄を降りて行き、その後、枝のように分岐した末梢神経の神経線維を走って行きます。神経の枝が向かう先はご存じ「上腕二頭筋」ですね。つまり、神経線維は電流を伝える電線のようなものなのです。この電線がどこかで切れたり壊れたりひどく圧迫されたりしてしまえば、筋肉に運動命令が伝わりませんから、その神経が支配していた筋肉は動かせなくなります。結果、その部分の筋肉はクシュクシュと小さくなっていってしまいます…これが①の仕組みです。

では②はと言うと、筋肉そのものの病気です。色々と種類はありますが、その多くが遺伝子疾患(病気の原因が何らかの遺伝子にあるもの)であることが分かっています。子どもの頃から発症するもの、成人になってから発症するもの、部位なども様々です。

①の代表的な疾患として知られるのが「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」です。難病に指定されている進行性の病気で、神経が壊れて行ってしまう原因はまだ解明されていません。去年、この病気を一般にもっと知ってもらうために、そして寄付を募るために行われたイベントが記憶に新しい方もおられるでしょう。「アイスバケツ・チャレンジ」です。頭からバケツ一杯の氷水をかぶるか、ALS協会に100ドルの寄付を行うことを一応のルールとします(両方でも可。まず宣言し、実行したことをSNSなどを通じて報告し、次の2~3人を指名する)。賛否両論ありますので、どう感じるかは皆さんのお考えに委ねます。ともかく、多数の芸能人や海外セレブがこれに参加したことで認知度が上がり、支援金が集まりやすくなったのも事実でしょう。

難病とされているものには、その治療法を開発するためにも、原因の究明が必要で、そのためには多額のお金が必要です。②の代表的な疾患「筋ジストロフィー」も難病とされており、ゆっくりと進行する筋萎縮に対して根治させる治療法は未だ確立されていません。世の中には様々な病気があり、支援が必要な方々がたくさんおられるということ。出来ることは、お金の支援だけでは無いと思います。孤立しがちな当事者の方々が、少しでも生活しやすい社会を作っていくために、何かできることはないかな、と。そんなことを、少しでも考えるきっかけになればなあと感じます。

あれ、なんだか深刻めいたお話になりましたね。では最後に、③の筋萎縮に関わることをお話します。何らかの理由で筋肉を使わないでいると、筋肉が萎縮してきてしまうことは、これまでの稿でも述べてきました。この廃用性筋萎縮の影響も大きいのでしょうが、年を重ねると筋肉量が減ってくることが知られており、この加齢に伴う筋肉量の減少は「サルコペニア」と呼ばれています。完全にそのメカニズムは解明されていませんが、体力が落ち、外出機会が減り、運動量が低下することで、ただでさえ減少しやすくなっている筋肉に追い打ちをかけてはなりません。筋肉は、使っている強度に見合うボリュームになっていきます。階段の上り下りを毎日しているならば、階段の上り下りに必要な筋肉量は保たれる。平地歩行しかしなければ、平地歩行しかできないだけの筋肉量まで落ちていく。シンプルです。

文頭、全身の筋肉量と体温との関係についてお話ししました。日常的な筋トレは、筋肉そのものや運動パフォーマンスにのみ有効なのではないのです。幸運にも、健康な身体を持っている方、その健康を保つために、毎日をしっかりいきいきとフルに動きましょう。問題を抱えておられる方、無理はせず、でも、自分のこの先の人生を楽しんでいけるような体力を維持できるよう、適切な努力を日々に取り入れていきましょう。さ、まずは寒さに負けず、しっかり体幹に力を入れて姿勢を正し、顔を上げて大きく呼吸するところから始めていきましょう!

<プロフィール>

オークボアツコ

1978年3月生まれ。♀
本職は大学講師・理学療法士。その傍ら、絵の製作活動などやっています。
そんな諸々の素性が重なったご縁で、このたび「筋肉かるた」読み札の挿絵を担当させて頂きました。
趣味はランニングと飲酒を少々。筋トレでなく肝トレに励んでいる日々です。

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