【無意識に内側側副靭帯を伸ばしてしまう恐れがある】
一般的に、大腿四頭筋のストレッチングを行う際には、図1に示したように、右の大腿四頭筋をストレッチする際には右足を右手で持って、左の大腿四頭筋をストレッチする際には左足を左手で持って、行うことが多いと思います。この方法でも、まっすぐに膝関節を曲げる必要があるということを理解し、かつ、ある程度の柔軟性がある人は、そのように実施することができます。しかし、まっすぐに膝関節を曲げる必要があるという理解が不十分であったり、柔軟性が不足したりしている人では、膝をひねってしまい、内側側副靭帯に負担をかけてしまう可能性があります。そもそもストレッチングは、柔軟性が不足している人が行うべきものなので、その可能性は高くなります。
図1 一般的に行われている大腿四頭筋のストレッチング |
【内側側副靭帯に負担をかけない方法】
内側側副靭帯を伸ばさないようにしながら、大腿四頭筋をストレッチするためには、同側の手で足を持つのではなく、反対側の手で足を持つようにします。つまり、右の大腿四頭筋をストレッチする際には右足を左手で持って、左の大腿四頭筋をストレッチする際には左足を右手で持って行います(図2)。
このようにすると、今度は、内側側副靭帯ではなく、外側側副靭帯に負担が加わりますが、「第4回:ハードラーズストレッチング」でも解説したように、外側側副靭帯は太くて短いために内側側副靭帯よりは丈夫であることと、半月板ともつながっていないので、問題を起こすことはほとんどありません。
図2 大腿四頭筋のストレッチングでは、反対側の手で足を持つこと。 |
ただし、反対側の手で持つ場合には、一つの難しさがあります。ストレッチングは、柔軟性が不足している人が、その不足を改善するために行うものです。そして、大腿四頭筋の柔軟性が不足している人が、膝を曲げて、反対側の手で曲げた方の足を持とうとしても、手が届かないことがあるのです。そのような場合は、図3に示したように、タオルを足首に引っかけて、そのタオルを手で引き上げるようにしながら、ストレッチングを実施してください。
図3 お勧めの大腿四頭筋のストレッチング |
【最後に】
大腿四頭筋のストレッチングを行う際には、内側側副靭帯に負担をかけないように、同側ではなく、反対側の手で足を持つように行う方が安全上は望ましいことを紹介しました。
もう一つ、大切なことは、ストレッチングは、柔軟性が不足している人が行うものであることです。
一般的には、柔軟性は高ければ高いほど「良い」と思われています。例えば、器械体操とか、新体操とか、フィギュアースケートとか、柔軟性そのものが審査の対象になるようなスポーツの場合は、柔軟性は高ければ高いほど「良い」ことになります。しかし、スポーツではない健康づくり運動の場合は、「柔軟性が高いということは関節の不安定性が高い」と考える必要があります。
<プロフィール>
西端 泉(にしばた いずみ)
川崎市立看護短期大学教授、日本フィットネス協会理事
主な研究テーマ:
高齢者の体力・健康を維持・増進するためのレジスタンス・トレーニング
安全性を優先した健康づくり運動の開発
認知症予防・改善のための運動
発達障害を有する子どものための運動