これが本当の健康づくり運動

これが本当の健康づくり運動

第11回 自転車こぎ運動とサソリのポーズ

 ここまで取りあげた「やめたほうがよい運動」にも、それぞれに実施する目的がありました。例えば、第4回で取りあげた「ハードラーズストレッチング」はハードラーには不可欠なストレッチングです。ところが、当たり前のように行われている運動の中には目的不明なものもあります。異常な姿勢で行われるため、行うのには苦痛が伴うため、なんらかの効果があると勘違いしていることが多いようです。
ここでは、そのような異常な姿勢で行われる目的不明な運動を2つ取り上げます。なお、今回取り上げた運動の呼び名は、運動そのものの目的が不明確であることから、筆者の経験から適当につけた名前です。

【自転車こぎ運動】
 図1に示した運動を行う人がいます。自分で行った経験はなくても、どこかで見かけたことはあると思います。美容体操の一つとして、雑誌に紹介されていることもあります。

図1 自転車こぎ運動
図1 自転車こぎ運動

 やってみると、それなりにつらいので、何か効果があるように感じられます。果たして、どのような効果が期待できるのでしょうか。
 自転車のペダルをこぐように、足をぐるぐる動かします。ということは、足を動かす骨格筋を働かせるわけですから、脚の骨格筋が強くなるような気がします。しかし、その足は空中を動いているだけですから、全く抵抗が加わっておらず、脚の骨格筋を強く働かせることはできません。普通に歩くほうが、少なくとも、自分の体重を移動させるという負荷が加わるため、はるかに効果的な運動です。
 この姿勢を維持するために、肘と頭で床を押し続け、バランスを保つ必要があります。そこで、頭を支える首の後ろ側の骨格筋と、肘を床に押し付ける力を発揮する肩の後ろ側の骨格筋は比較的強く活動するでしょう。しかし、何もこのような姿勢の運動をしなくても、首の後ろ側や、肩の後ろ側を強化する運動は、他にいくらでもあります。

【サソリのポーズ】
 図2に示したポーズは、あるフィットネス関係の雑誌に、挿し絵写真として掲載されていました。私がこれを見たときは、写真の本人はもとより、これを掲載した人の良識を疑いました。これは、「フィットネス」ではなく、「パフォーマンス」です。競技として行われるエクササイズと、フィットネスとして行うべきエクササイズを混同してもらっては困ります。

図2 サソリのポーズ
図2 サソリのポーズ

【この2つの運動の危険性】
 前回の「スキのポーズ」同様、今回の2つの運動にも共通した危険性を3つ指摘することができます。
 その一つは、体重を首(頚椎)で支えていることによる危険性です。ヒト以外の脊椎動物の中に、このような姿勢をする動物は見当たりません。つまり、進化の過程から考えても、頚椎は身体を支えるほど丈夫にはできていません。万が一バランスを崩して、より大きな力が加わると頚椎が折れてしまったり、折れないにしても、重大な傷害につながったりする恐れがあります。ひどい場合は、頚椎損傷による身体麻痺を起こします。
 2つ目は、頚椎を深く曲げて(反らして)いることです。頚椎のすき間を通って、頚動脈が流れています。頚椎を深く曲げると、頚動脈が圧迫され、脳への血流が障害されて、脳梗塞などの命にかかわる問題を起こす恐れがあります。
 3つ目は、頭を心臓よりも低くしていることです。普段、頭を心臓よりも低くすることはほとんどありません。夜眠るとき以外は、頭は心臓よりも高い位置にあります。そこで、心臓は、ポンプとして働いて、脳に十分な血液を送り続けます。腕や脚は、心臓よりも低い位置にありますから、心臓はそれほど強く働かなくても、重力の力を借りて、楽に血液を送ることができます。ところが、この2つのような姿勢で運動を行うと、腕や脚の方が心臓よりも高い位置になるので、血液を送るのが困難になって、心臓はより強く働く必要があります。心臓が強く働くと、今度は心臓よりも低い位置にある脳へ多量の血液が、強い圧力で送られることになります。この結果、脳出血などの命にかかわる問題を起こす恐れがあります。また、目の網膜の出血である眼底出血を起こす恐れもあります。
 筆者が筋力トレーニングを指導していた高齢男性Aさんが、自宅でお風呂の掃除をしている最中に、眼底出血を起こしてしまいました。皆さんがお風呂(バスタブ)の掃除をするときの姿勢をイメージしてみてください。2通りの姿勢が考えられます。
 その一つは、水を抜いたバスタブの中に入り、しゃがんでスポンジでバスタブの内側を磨く姿勢です。もう一つは、バスタブの中には入らず、洗い場からバスタブの中に手を伸ばしてバスタブの内側を磨く姿勢です。この2番目の姿勢だと、バスタブの側面の下のほうや、バスタブの底面を磨くためには、上半身をバスタブの中に入れて、頭を心臓よりも低くしなければ、手が届かないはずです。そして、力を入れて磨くわけですから、心拍数が増加し、血圧が上昇します。
 Aさんは、この2番目の姿勢が原因で眼底出血を起こしたと考えられます。
 前回と今回で取り上げた姿勢(運動)だけでなく、日常的な動作においても、心臓よりも頭を低くした姿勢で、力を出したり、息んだりするのは止めた方がよいのです。


【最後に】
 しばしば目にする運動の中に、安全性や効果に問題があるものがたくさんあります。今回紹介した2つの運動は、そもそも、その目的が不明なものです。その運動しか、目的とした部位を強化することができなかったり、ストレッチする方法がなかったりするのであれば、目的によっては慎重に実施することになります。しかし、今回取り上げた2つの運動には、実施する「目的」が見当たりません。やめた方がよい運動といえます。


<プロフィール>


西端 泉(にしばた いずみ)

川崎市立看護短期大学教授、日本フィットネス協会理事

主な研究テーマ:
高齢者の体力・健康を維持・増進するためのレジスタンス・トレーニング
安全性を優先した健康づくり運動の開発
認知症予防・改善のための運動
発達障害を有する子どものための運動


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