オークボアツコの「筋肉豆知識」

オークボアツコの「筋肉豆知識」

最終講:‘運動器’という考え方について

読者の皆さまこんにちは。この連載も今回で50回目、ラストとなりました。「筋肉かるた」に採用された筋肉をお題に稿を進めてきましたが、最後ということで、少し広い視点から‘運動’ということについて書いてみようと思います。

身体を動かすためには、脳からの運動指令が脊髄を伝って降りて行き、末梢神経の枝を通って1つ1つの筋肉にたどり着いて筋収縮が起こることが必要です。収縮する筋肉に引っ張られ、関節が曲がったり伸びたりする、これがいわゆる「運動」ですね。これら、運動や身体の支持に関わる器官をまとめて「運動器」と呼びます(骨・関節・靱帯、脊椎・脊髄、筋肉・腱、末梢神経など)。つまり、これらの構成メンバーのうち、どこか1つでも障害されると、その連携が崩れ、身体がうまく動かない事態に陥ります。

2006年、高齢化によってバランス能力や移動歩行能力の低下が生じ、閉じこもりや転倒のリスクが高まった状態を「疾患」のひとつと捉えよう、ということで、日本整形外科学会等がこれを「運動器不安定症」と定義づけし、診断基準を設けました。‘運動機能の障害’は、予防したり治療したりするべき‘病気’の一種なのだよ、という考え方です。日本は、世界でも類を見ないスピードで「超高齢社会」に突入しました(2007年)。65歳以上が人口に占める割合は、現在約25%、4人にひとりの計算ですね。もちろん、65歳を過ぎても滅茶苦茶アクティブで元気な方々もおられます。でも、そうでない方々がいらっしゃることもまた事実。

皆さまは、予定としてあと何年くらい生きる予定ですか?2010年の調査では、日本人の平均寿命は男性79.55歳、女性86.30歳。今の年齢を引き算すれば、あと大体どれくらい生きられるか分かるな~なんて、のんきなことも言っていられないのです。同調査で、平均「健康寿命」は男性70.42歳、女性73.62歳と報告されています。「健康寿命」とは、「健康上の理由で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のこと。つまり、男女とも、最後の約10年ほどは、何らかの支援や介護など、他者から助けてもらいながらの生活になるよ、と言うことを示しているのです。例えば歩いて出かけること。他者との会話、趣味活動。例えば着替えや入浴。トイレでの洋服の上げ下ろしや、便器からの立ち座り、後始末など。自分の身の回りのことは、最期のときまで出来れば自分の力でやれたらいいなと私自身は思います。皆さまはどうでしょう。

実際、支援や介護が必要になった理由として現在最も多いのが「運動器の障害」であるとの報告もなされています。このような状況において、国民への注意喚起という意味を込め、2007年、日本整形外科学会が新たに提唱した「ロコモティブ・シンドローム(運動器症候群。略してロコモ)」という概念があります。前述の「運動器不安定症」より、もっと広い概念で、加齢に伴う運動器の疾患や身体機能の低下によって、介護が必要になる可能性が高い状態になること、を指しています。

う~ん、その言葉、ちょっとピンと来ないな~、という方、いらっしゃいますかね。「メタボリック・シンドローム(内臓脂肪症候群。略してメタボ)」という言葉はご存知でしょう?‘メタボ’は、内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つ以上をあわせもった状態のことを言いますが、おなかのポッコリ具合をメジャーで測ったりして判定するため、「太っていること」を指す言葉だと勘違いしている方もおられるかもしれません。これは(日本では)2005年に概念や診断基準が確立され、将来的に心筋梗塞や脳卒中など生命にかかわる疾患が生じるリスクが高いため、メタボにならないよう若いうちから気を付けましょうよと言う注意喚起としての意味がありました。結果、メタボという言葉は一般によく知られるようになり、そうならないよう気を付けよう、という流れになりました。

‘ロコモ’もいわば、同じようなことです。ロコモになると、将来的に、自分自身の生活が、人の手を借りないとやって行けなくなってしまうよ、だから若いうちから気を付けて予防しよう、という取り組みなのですね。

例えば、筋肉や骨は40歳頃から衰えはじめることが知られています。ロコモかどうか気になる方は、簡単な7項目の「ロコ・チェック」を行ってみましょう。以下のうち一つでも当てはまると、ロコモの心配があるとされます。
① 階段を昇るのに手すりが必要
② 続けて15分程度歩けない
③ 片足立ちで靴下がはけない
④ 横断歩道を青信号で渡りきれない
⑤ 家のなかでつまずいたり滑ったりする
⑥ 家でのやや重い仕事が困難
⑦ 2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難
…さて、どうでしょう。当てはまるものがあった方、何らかの対策をした方が良い状態ですよ。

「新陳代謝」という言葉通り、我々の体は、日々、古い細胞が死に、新しい細胞が生まれ、少しずつ造りかえられています。筋肉や骨も同じです。年をとると、そのサイクルのスピードこそ落ちますが、古い要らない細胞が分解され、その分、新しい細胞が形成されます。ただ、運動器の場合、その分解と形成のバランスに「使用程度(力学負荷の程度)」が大きく影響することが知られています。つまり、使う頻度や負荷量が少なすぎれば、筋肉量や骨量は「あ、こんなに要らないんだ」ということで減ってしまいます。動かさなければ、腱や靭帯も「あ、こんなに柔軟性要らないのね」ということで硬くなっていきます。かと言って、いきなり過剰な負荷を与えすぎれば損傷につながる可能性があるため、日常生活+αの強度を保って生活する意識を付けておくのが最も適切でしょう。

自分の生活を、最期まで自分の力で生ききるためのちょっとした習慣づけ。ジム通いの習慣をつけましょうとか、毎日ランニングしましょうとか、そこまでのことは言いません。ただ、これまでよりもちょっと活動的に外出したり、早足・大股でキビキビ歩いてみたり、毎朝起きたら大きく身体を伸ばしてみたり、駅ではエスカレーターでなく階段を選んでみたり。そんなちょっとした日々の‘貯筋(ちょきん)’が、将来の大きな財産になるのではないかなと思います。

自分の身体に興味があってこの連載を読んでくださっていた方も、他者の治療やトレーニングに携わる方も、単なる筋肉好きの方も。皆さんが少しでも、筋肉をはじめとする‘運動器’に興味を持ち、この先もずっと大切に使い、育て、的確なメンテナンスをして行けますように! それでは、これまでお読み頂きまして本当にありがとうございました。またいつか!

<プロフィール>

オークボアツコ

1978年3月生まれ。♀
本職は大学講師・理学療法士。その傍ら、絵の製作活動などやっています。
そんな諸々の素性が重なったご縁で、このたび「筋肉かるた」読み札の挿絵を担当させて頂きました。
趣味はランニングと飲酒を少々。筋トレでなく肝トレに励んでいる日々です。

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