オークボアツコの「筋肉豆知識」

オークボアツコの「筋肉豆知識」

小胸筋

今回は小胸筋です。「小さい胸」と書きますが、実際はバストアップに貢献すると話題の筋肉です。あ、雑談ですけど、控えめサイズの女性の胸のことを「ちっぱい」と呼ぶらしいですね。貧しい乳と書くよりずっと可愛らしい感じがいたします。

さて、閑話休題。小胸筋がどこにあるかというと、胸を広く覆う「大胸筋」の下の層。なので直接触診することは困難です。バナナが3本ついたバナナの房のような形をしており、くっついた房の部分は肩甲骨の上方にある突起(烏口突起といいます)に付着しています。ここから下方へ向かって走行し、3本のバナナの先はそれぞれ3番目、4番目、5番目の肋骨に付着します。つまり、体の前面で肩甲骨と肋骨をつないでいるのですね。肋骨が動かないよう固定したままでこの筋肉を働かせると、肩を丸めて猫背にするような感じで肩甲骨が前に出てきます。逆に、肩甲骨を動かないように固定したままで小胸筋を働かせると、上部肋骨が上方へ引っ張り上げられ、胸腔が広がります(すなわち、深呼吸のときの息を吸う動作を補助したりもしているわけですね)。

この、肋骨を上に引き上げる動き、別の言い方で例えてみますと、肩甲骨から肋骨をサスペンダーのように吊り上げている、とも言えます。冒頭で「バストアップにも貢献」と書いた所以はそこにあります。以前「大胸筋」の稿で、‘乳房は大胸筋という土台の上に乗っている乳腺と脂肪の塊’だと書きました。支える土台の大胸筋を鍛えることで、胸の底上げが図れるよというお話をしたのですが、実は、その下にある小胸筋の走行こそ、加齢とともに下に下がっていく女性の胸の救世主だったのであります。

悲しいかな、地球の生き物は、この星のもつ重力の影響から逃れることはできません。加齢に伴い筋肉量が落ちてくると、重力に対して直立方向に身体の組織を支える力が不十分になってきます。だからこそ年を取っていくと徐々に皮膚がたるみ肉が下がり腰や膝が曲がり…いわゆる「高齢者特有の」姿勢になっていくわけです。胸もしかり。女性の読者様、ちょっと上半身の服と下着を脱いで鏡の前に立ってみてください。あ、いま職場でしたら、やらなくて結構です、おうちでお願いします。一般的に、「女性の理想的な胸の位置」は「鎖骨中央のくぼみと左右のバストトップを結ぶと正三角形になる位置」だそうですよ。これが年を取っていくと二等辺三角形になっていくわけです(悲しいお話です)。ぜひ吊り上げたい。重力なんかに負けず、吊り上げておきたいですよね。あ、女性だけじゃないですよ、乳房こそないものの、男らしい胸板はパーンと張っていればこそ魅力的なわけじゃないですか。しょんぼり下がってくるのは極力防ぎたいものです。大胸筋だけでなく、胸の組織を上方へ釣り上げる走行を持つ小胸筋をもしっかり鍛えておくことで、下垂を防ごうではありませんか。

ちなみにこの小胸筋、普段デスクワークなどで肩を丸めるようにして腕を前方で固定し長時間過ごしている方などでは縮こまったままであるため、固く凝り固まるように緊張してしまっていたり、逆に、大きく動かす機会を持たないことで弱く萎縮してしまっていたりする場合も多いようです。リフレッシュするため、まずは小胸筋の簡単なストレッチから始めてみましょうか。胸の大きい方も、その重量を吊り上げるために小胸筋に負担がかかってしまって疲労が蓄積している可能性がありますからご一緒に。壁の前に立ち、高々と挙手をします。その掌を壁につけ、腕の付け根をぐーっと伸ばすように腕全体を壁の方へ押しつけながら軽く腰を曲げ、体を前へ倒していきます。息を吐きながらゆっくりと10秒、腕の付け根…と先ほど言いましたが、正確には、伸ばしたいのは胸の前部、脇に近いあたりです。肩甲骨を上へ、壁の方へと押し付け、逆に胸郭は下に押し下げる感じです。左右とも行っておきましょう。例えば会社のお昼休みとお風呂上りなど、習慣的に組み込んでおくと良いのではないかと思います。ストレッチして小胸筋の柔軟性が上がると肩の動きも楽になる場合が多いですし(肩甲骨に付着しているわけですから当然です)、猫背ぎみの肩甲骨の位置も、変に前に引っ張られなくなりますから正しい位置にリセットされやすくなるでしょう。また、胸まわりの血行が良くなることで、バストへの栄養もうまく行きわたりやすくなることも期待できますよ。

筋トレの方法としては、安定した椅子か低めの台を背にして立ち、後方でそこに両手をつきます。指は自分の方に向けて。体勢は、けっこう大変ですが、台についた両手で体重を支え、その前の空間に膝を直角くらいに曲げ体を保つ…そうですね、「椅子からお尻が滑り落ちて手で支えている」的な状態になっています。ここから肘を曲げていきますと、肩甲骨がぐっと前方に出てくる感じが分かりますよね。腰が沈まないようにしっかり腕で支えてください。ここからゆっくりと肘を伸ばし、この屈伸運動を反復します。あくまでも鍛えたいのは腕でも下半身でもなく胸の前部にある小胸筋。筋肉の位置と「胸郭に対する肩甲骨の動き」をしっかり意識しながら行ってみてくださいね。10回×2セット程度で良いでしょう。

トレーニングの効果が分かりづらい地味なインナーマッスルではありますが、日常的に大事にしておくことで、きゅっと引きあがった魅力的な胸を手に入れることが出来るかも。もちろん、深く息を吸う働きも生命維持には必須であるため、小胸筋は年をとっても大胸筋ほど目に見えて筋肉自体のボリューム(体積)が落ちてしまうわけではないことも証明されています。若いうちからしっかり小胸筋をのびのび使い、加齢の過程で縮み固まってしまわないよう、ちゃんと可愛がってあげたいものですね。

<プロフィール>

オークボアツコ

1978年3月生まれ。♀
本職は大学講師・理学療法士。その傍ら、絵の製作活動などやっています。
そんな諸々の素性が重なったご縁で、このたび「筋肉かるた」読み札の挿絵を担当させて頂きました。
趣味はランニングと飲酒を少々。筋トレでなく肝トレに励んでいる日々です。

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