オークボアツコの「筋肉豆知識」

オークボアツコの「筋肉豆知識」

肘筋

今回取り上げるのは「肘筋(ちゅうきん)」。文字通り肘の後方にあるのですが…いかんせん小さい。言っちゃ悪いですが、地味。なぜ総選挙で選ばれたんだ君は。組織票か。書くネタに困るじゃないかまったく。…などと些細な文句などが出ちゃったりしますように、実際あまり派手な働きはしておりません。しかしまあ、ものはついでですから、肘関節の構造からお話を始め、それに関連づけて肘筋をご紹介して行こうかと思います。

ヒトの肘関節は、二の腕(=上腕)の骨と、肘から手首まで(=前腕)の骨との間にあり、「曲げる(屈曲)」と「伸展(伸ばす)」という一軸性の動きをする関節です。ちょうつがいの開閉する様子に似ているので「蝶番関節」と呼びます。ただ、前腕には骨が二本あり、親指側にある骨を橈骨(とうこつ)、小指側にある骨を尺骨(しゃっこつ)といいます。このうち、実際に上腕骨と連結して蝶番関節を作っているのは「尺骨」の方。その証拠に、肘を曲げたときに一番尖っている先っちょ「肘頭(ちゅうとう)」の骨を触りながら手首側へたどって行くと、小指側にたどり着くと思います。尺骨は肘側が出っ張って肘頭を形成し、上腕骨のくぼみにはまり込むような形で蝶番関節を形成しています。

では橈骨は何のためにあるかというと、前腕をくるりとねじって「手のひらを返す」動きをするために存在しています。橈骨は肘関節の部分で尺骨と連結し、尺骨の周りをくるりと回転するような「車軸関節」を構成しているのです。このように3つの骨で成り立っている肘関節も、他の関節と同様に、その周囲の靭帯や腱や筋肉でその安定性が保たれています。脚の関節のように常に体重がかかってしまうような関節ではないので、そこまで外力に対して頑丈にできているわけではありません。にも関わらず、肘関節ってテニスやゴルフ、野球などのスポーツで酷使される部分なんですよね。したがって、いわゆるテニス肘、ゴルフ肘、野球肘といった整形外科系の異常が引き起こされることが多いのです。

さて、ということで肘関節の構造のお話をしてきましたが、今回の主役「肘筋」が何をしているかというと、肘の後面にちょろっとくっついている小さな筋肉で、上腕骨後面の端っこから尺骨の後面の端っこにかけて走行しています。作用としては「肘関節を伸ばす」働きがあるのですが、皆さまご存知の通り、肘関節伸展の主動作筋は「上腕三頭筋」。肘筋は、けなげにその補助として働いています。ただ…、肘筋にはその他にひとつ重要な働きがあります。関節は、なめらかに稼働するための仕組みとして、連結する骨と骨とが「関節包」という袋状の構造で包まれている(袋の外側は骨からつながる骨膜と同様の線維質の膜、内側は潤滑液の役割をする「滑液」を分泌する「滑膜」から成ります)のですが、肘筋は肘関節の関節包をぴんと張って緊張させておく役割があるのです。この機能が働いていないと、肘を屈伸させたときに、たるんだ関節包の膜が肘関節に巻き込まれて挟まれてしまう危険性があるのです。地味だけど意外と重要な役割があることをこれで紹介できました。ふう。

このように、関節運動に伴って、関節包や筋肉が何かの拍子に挟み込まれてしまい、痛みが誘発されるような症状のことを、一般に「インピンジメント症候群」と呼びます。インピンジメントとは元々「衝突」「衝撃」といったような意味を持つ英単語です。例えば野球肘を例にとると、投球動作の最後などに肘関節を最終域まで伸展した際に肘の後方に痛みが走るタイプのものがあります。これは、肘が筋力+遠心力で強く素早く引き伸ばされることにより、上腕骨のくぼみと肘頭部分とがガツンと衝突することが原因で、何度も繰り返すうちにそこに炎症が起こっている場合が多いのです。野球肘って特に小学生などの子供さんに多いですよね。まだ筋肉が十分に発達していないため、ボールを投げるときの遠心力に耐える筋力がなく、肘を安定な位置に護っておくことができないのです。ひどい場合は衝突を繰り返す部分に疲労骨折が生じるばあいもあるので注意ですよ。

過剰に負荷がかかることが原因の炎症なわけですから、スポー活動後に痛みがあると気づいた場合は、応急処置としてアイシングをし、炎症をできるだけ最小限に抑えるよう対処します。アイシングは氷のうなどに氷を入れて痛む部分にあてておきますが、氷のうがない場合はビニール袋でも良いです。ただし、皮膚の凍傷を防ぐため、間にタオルをかませるなどの配慮をしてくださいね(ちなみにタオルは乾いたものでなく濡らして絞ったものが望ましいです。濡れている状態の方が熱の伝導率が良いので)。毎回痛みが出るようであれば、スポーツ活動を一時お休みし、安静につとめる期間を取り、復帰は痛みが取れてからにしましょう。再損傷を防ぐための筋トレも重要ですね。完全に壊れてしまっては元も子もありませんから、気をつけましょう。肘関節屈曲での「肘鉄砲」、からの、肘関節伸展での「裏拳」…健やかな肘は護身術にも役立つかも?小さい筋肉ですが、肘筋のことも知ってあげてくださいね。


<プロフィール>

オークボアツコ

1978年3月生まれ。♀
本職は大学講師・理学療法士。その傍ら、絵の製作活動などやっています。
そんな諸々の素性が重なったご縁で、このたび「筋肉かるた」読み札の挿絵を担当させて頂きました。
趣味はランニングと飲酒を少々。筋トレでなく肝トレに励んでいる日々です。

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