オークボアツコの「筋肉豆知識」

オークボアツコの「筋肉豆知識」

肩甲挙筋

皆さまこんにちは。毎回、ここの連載に何を書いたらいいかなあ…と思い悩むうちに〆切が過ぎて行くオークボです。Facebookに「誰か何かネタをください」と書いておいたところ、友人から「酒の話でもはさんではどうか」とテキトーな(?)助言を頂きました。日頃から我が身の飲酒頻度・飲酒量を反省しているワタクシ、真に受けてちょっと書いてみようかと思います。あ、ちゃんとその後、肩甲挙筋のお話もしますので許してくださいね。

適量をいただくのであれば、アルコールは身体をリラックス状態へ導く作用があります。これは、ヒトの大脳新皮質(いわゆる「理性の脳」)の働きを鈍くする作用があるから。すなわち、仕事や人間関係でたくさん考えることがあって、ストレスがいっぱいかかっている脳味噌を、ちょっとサボらせてやることができるのです。リラックス状態では骨格筋が弛緩し、血管もゆるんで血流が良くなります。普段から肩に力が入りがちな方には、ちょっとした頭と身体の息抜きになりそうな感じがしますね。

ただ、やはりアルコールは身体にとっては「異物」であり、肝臓で無害な状態にまで分解しなければなりません。つまり、いつも以上に分解工場を動かさなければならず、負担がかかるのです(また、分解の行程で発生するアセトアルデヒドという物質は身体にとって有害で、頭痛や二日酔いを引き起こすきっかけになります。たくさん飲んだ翌朝、「酒くさっ」と感じる息や尿のにおいがアセトアルデヒドのにおいですよ)。ともかく、アルコールの処理を身体が頑張らなければならないということは、通常の身体の新陳代謝がおろそかになるということ。例えば筋トレ後の超回復もそれだけ起こりにくくなります。また、過剰なアルコール摂取は、体内の成長ホルモンの分泌量を抑制してしまうらしく、そういった意味でも常用飲酒量の多い方は筋肥大が生じにくいと言えますね。慢性アルコール中毒者はガリガリに痩せている方が多いのですが、酒以外を受け付けず栄養が足りない、というだけでなく、大量飲酒が習慣になると、アルコールによる筋萎縮・筋線維破壊が生じてくることも知られています。いやあ…怖いですね。適量を守るっていうのは大切です。

ただ、何の運動習慣も無い方が飲酒するよりも、普段から筋肉をしっかり使ってエネルギーを消費した上で飲酒をする方が、身体としてもアルコールを燃やしてエネルギーの補填に回そうとしますので、後に残る悪影響は少ないと言えます。なので理想は、しっかり動いて適量のお酒、分解工場である肝臓を労うために時々の休肝日。そんな感じでしょうね。ええ…。

ということで、前置きが長くなりましたが、本日の筋肉、肩甲挙筋のお話。文字通り、肩甲骨を挙上する(肩をすくめる)動きを担当する筋肉です。上位頚椎から肩甲骨の内側上方にかけて、つまり首から肩甲骨まで背中側を斜めに走行しています。以前ご紹介した「僧帽筋」と共に、肩こりの原因となりやすい筋肉です。筋肉かるたでは「よっこいしょ 重いリュックに注意して 肩甲挙筋が疲れます」という読み札になっていますよね。確かに、重いリュックやカバンを肩に引っ掛けてかつぐと、重量で肩甲骨が下方へ引っ張られます。これを持ち上げておこうと肩甲挙筋が頑張るため、知らず知らず筋疲労が蓄積しやすいのです。特に「なで肩」の方は、気を抜いていると肩ひもがずるりと肩先から落ちてしまうため、ちょこちょこ意識して肩甲骨を持ち上げるように力を入れ直す必要があり、疲れやすくなっているかもしれませんね。

ちなみに最近、道ゆく若者を眺めていると、リュックの肩ひもがやたらと長い子が多いなあと感じます。ファッションや流行なので仕方ないのでしょうが、あれ、身体にとっては負担が大きい気がしますね。荷物がぴったり背中に密着している場合と比べ、肩ひもに全重量がかかりやすく、また、重さで上半身が下方・後方に引っ張られるため、それをカバーしようと肩が前へ出て猫背になったり、逆に頭だけが前へ出て亀のようなアライメントになったりしがちです。両肩が後方へ引っ張られることで腰が反ってしまう人もいるかもしれませんね。荷物を背負うなど、何らかの要因で身体のアライメント(身体のパーツの配列、といったような意味です)が崩れると、身体はなんとかしてバランスを保とうとして、いつもと違うところに力が入ります。どうバランスをとるかは個々人の使いやすい筋肉、行いやすい戦略があるので、上記のように、姿勢の悪さに様々なバリエーションが出てくるのです。重い荷物を持つ場合にできるだけ身体に負担をかけないようにするためには、できるだけぴったり身体に密着させること。つまり、身体自体の重心に荷物の重心を近づけることがコツです。登山やランニング用のリュックって、胸や腰に固定用のベルトがついていますよね。荷物の揺れを押さえるだけでなく、筋肉疲労をできるだけ起こさずにすむような固定が必要ということなのです。登山用のリュックにものを詰める際は、重いものは上に、しかも背中側に詰めると軽く感じることがよく知られていますが、これも肩甲挙筋にかかる負担を減らし、自分の重心と荷物の重心をできるだけ一体化させることに他なりませんね。

さて、最後に、普段お疲れの、そしてあまりケアしてあげていない肩甲挙筋のストレッチングをご紹介しておきましょう。椅子に座って右手で左の肩先をつかみ、肩甲骨が上がらないよう固定します。ここから首をゆっくり右に回して行きます。止まるところまで回し、首の斜め後ろがぐーっと引き伸ばされている感覚を感じましょう。30秒ほどゆっくり伸ばしたら、またゆっくりと首を元の位置に戻します。反対も同様に。また、頭の後ろで両手を組んで、脇を閉めながら前方に頭を降ろし、首の後ろもストレッチしておくとよいでしょう。肩に力が入ってばかりでは、日常のストレスで押しつぶされちゃいますよ。適度な飲酒とストレッチで、適度に息抜きしながら行きましょうね!

<プロフィール>

オークボアツコ

1978年3月生まれ。♀
本職は大学講師・理学療法士。その傍ら、絵の製作活動などやっています。
そんな諸々の素性が重なったご縁で、このたび「筋肉かるた」読み札の挿絵を担当させて頂きました。
趣味はランニングと飲酒を少々。筋トレでなく肝トレに励んでいる日々です。

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