オークボアツコの「筋肉豆知識」

オークボアツコの「筋肉豆知識」

虫様筋

「むしさま筋」ではなく「ちゅうよう筋」。この虫とはミミズのことです。手にも足にもありますが、本稿では手の虫様筋についてお話をします。指から掌にかけて存在する、ちょろんとした細い小さな筋肉で、手の第2~5指を伸ばしたまま、指の付け根の関節だけ(MP関節と呼びます)を曲げる、という動きを担当しています(足の場合も同じ)。指の腹で細かいものをつまむような動作、というと伝わりやすいでしょうか。

虫様筋のかるたの読み札は、ロッククライミングをされている方からの投稿だったようですね。自分の身体ひとつで岩壁をよじ登る…運動音痴のワタシは、想像するだけで手汗をかきそうです。岸壁のでっぱりを手がかり足がかりにして自分の身体を固定し、上へ上へと身体を引き上げて行く。筋力だけでなく、全身のバランス感覚と身体の柔軟性も必要ですね。クライミングをスポーツとして楽しむボルダリングも、かなり流行ってきている様子です。壁に取り付けられたカラフルなでっぱり(ホールドといいます)を指で文字通りホールドするわけですが、指先の第一関節(DIP関節)だけを曲げてエッジに引っ掛ける持ち方をオープンハンド、DIP関節は伸ばした状態で指先から2番目の関節(PIP関節)を曲げる持ち方をクリンプ(またはカチ持ち)と呼びます。ちなみにどちらも第2~5指をぴたりとそろえ、親指も人差し指に添えて固定の補強に用います。指の屈曲を担っているのは深指屈筋(しんしくっきん)と浅指屈筋(せんしくっきん)という筋肉たちですが、ホールドする指を屈曲した位置でしっかり保持・固定するには、虫様筋の柔軟性と強度が重要と言われています。

また、虫様筋の重要性を感じているのはクライマーの方たちだけではない様子。ジャンルは全く異なりますが、ピアノを弾く上でもこの筋は着目されているようです。確かに、ピアノの鍵盤を打鍵する動きこそ、MP関節の屈曲です。決してDIP関節やPIP関節をくねくね曲げて鍵盤を叩くわけではありませんよね。ワタシも幼い頃ピアノを習っていましたが(死ぬほど下手です…)、「手の形はタマゴをそっと包んでいるような感じで自然にまるく保ったままで弾くのよ」と習いました。この、掌と指をまるく保ったままで、指を繊細に使うわけですから、やはり虫様筋の柔軟性と固定力が必要で、また音の強弱のコントロールといった緻密な力の制御というのも重要になってきます。

ミミズのように細っこい小さな筋肉ではありますが、実はこの虫様筋には、大きな特徴があります。どの骨格筋の中にも、その伸縮状態を感知するための受容器が存在する(筋紡錘、きんぼうすいと言います。長さ6~8mm。)のですが、虫様筋にはとても多くの筋紡錘があることが分かっているのです。例えば、上腕二頭筋の中には320個、1g当たりに換算すると約2個の割合ですが、手足の虫様筋では1g当たり約20個もあるとのこと。受容器がそれだけあるということは、細かく素早い動きのコントロールが可能だということです。強く激しい音、やわらかな優しい音、色んな音の表現があってこそ生まれる演奏の厚みってありますもんね。

柔軟性を保つにはストレッチングを習慣づけるといいでしょう。第2~5指を反対の手でまとめて掴み、指の付け根のMP関節をぐっと反らせます。最終域まで反らせたら気持ち良いくらいの伸張を加えて10秒キープ。気づいたときにでも数回行います。また、手の甲を触ってみると、指の延長線上に、手の中にも指の骨のような形状の細長い骨が5本あります(中手骨と言います)。虫様筋はこの第2~5番目の中手骨の間から指にかけて走っている筋肉なので、反対の手で中手骨と中手骨の間をつまんで(親指を掌側にしてつまむと良いです)ぐりぐりとマッサージするのもおすすめです。ここには骨間筋などの他の筋肉も存在しますので、よくほぐしておくと指の開きも良くなりますよ。

小さな筋肉なので筋力トレーニングの効果は感じづらいかもしれませんが、ダンベルやペットボトル等の重り、もしくはそれを入れた手さげカバンなどを使って簡単な運動ができます。座っていても立っていても構いませんので、腕を下に降ろし、第2~5指をそろえたら、ここに引っ掛けるように重りを置きます。ここからMP関節をしっかり曲げて重りの上げ下げを行います。やってみると分かりますが、MPだけを選択的に曲げるのって難しいんですよ。これは手の構造上、仕方のないことなので、指がある程度曲がってしまってもそれほど気にしないでください。ただ、指を丸め込むのではなくあくまでMP関節を曲げるのだという意識を持って筋肉を収縮させることが大切です。疲労するくらいまで反復して行ったら、あとはしっかりとストレッチをしてクーリングダウンしてください。やりすぎで炎症を起こしてしまったり、使いすぎで疲労が蓄積し、凝り固まったような状態になってしまうと本末転倒ですからね。

あ、ピアノも弾かないしクライミングもしないもん、というアナタも、パソコン作業をすることはあるんじゃないでしょうか。これも同じように虫様筋を使う動きです。虫様筋をしっかり使えている人ほどキーボード入力操作も速かったりして。自信のある方、原稿書き手伝ってくださ~い…(笑)


<プロフィール>

オークボアツコ

1978年3月生まれ。♀
本職は大学講師・理学療法士。その傍ら、絵の製作活動などやっています。
そんな諸々の素性が重なったご縁で、このたび「筋肉かるた」読み札の挿絵を担当させて頂きました。
趣味はランニングと飲酒を少々。筋トレでなく肝トレに励んでいる日々です。

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