オークボアツコの「筋肉豆知識」

オークボアツコの「筋肉豆知識」

梨状筋

梨状筋の「梨」はラ・フランス、すなわち西洋ナシのことです。名前の由来は、形が似ているよというだけ。お尻の深部にある筋肉で、股関節を外旋する(膝を外側に向けるように大腿骨を外へ回旋する)働きを持っています。

この、股関節の外旋という動きに関わる筋肉は6つあり(梨状筋・上双子筋・下双子筋・外閉鎖筋・内閉鎖筋・大腿方形筋)、「外旋六筋」と呼ばれたりします。梨状筋以外は惜しくも筋肉総選挙で敗れ、かるたに採択されておりませんが…。

さて、かるたの読み札は「名医いう 坐骨神経痛ではありません 梨状筋症候群」。坐骨神経ってご存知でしょうか。坐骨神経は、腰から骨盤、お尻の深部を通って足先まで伸びている長~い神経です(1m程度あります)。太い部分はエンピツほどの太さがあり、大腿の後面から膝下にかけての筋肉を動かす運動指令を伝えています。通常この坐骨神経は梨状筋と上双子筋の間を通っていますが、人によって多少のバリエーションがあり、梨状筋を貫くように通るタイプや、二股に分かれて梨状筋をはさむように通るタイプもあります。 では「坐骨神経痛」とは何なのか。これは、坐骨神経の走行部分にかけて痛みやしびれが走るという『症状』の名前です。つまり、病院で診断される『病名』ではないのです。この『症状』の原因には色々あり、それが「腰椎椎間板ヘルニア」だったり「梨状筋症候群」だったりするのです(これらが『病名』)。

前述の通り坐骨神経は、長い上に、骨や筋肉の隙間を縫って通っていますので、色んなところで圧迫や締め付けが起きやすい構造です。この異常な圧迫状態の原因が、過度に緊張して凝り固まった梨状筋にある場合、これを「梨状筋症候群」と呼ぶわけです。

運動や仕事で梨状筋が緊張して硬くなり、柔軟に収縮しない状態だと、神経が物理的に圧迫され、運動指令がうまく届かなくなります。そうすると坐骨神経を伝わる指令で動いている大腿後面から下腿にかけての筋肉群の動きが悪くなり、過度に緊張した状態となり、血流も滞りやすくなります。こうなると、筋肉組織に酸素を含んだ血液がうまく行き渡らず酸欠となり、痛みを引き起こす発痛物質がたくさん産生されるとともに、血流で流れて行かないため、その部位に溜まった状態になります。これが、坐骨神経痛の痛みが発生するメカニズムです。感覚を伝える知覚神経が圧迫されることで、しびれや感覚のにぶさなどの感覚異常が生じることもあります。梨状症候群では、立ったり歩いたりしている時はいいのですが、座るとちょうど梨状筋が坐骨神経を押しつぶすような格好になりますので、圧迫が強まり、症状が増悪する場合が多いようです。

対処としては、梨状筋の過緊張が生じてしまった原因を考え、過剰な負荷をかけてしまっていた場合は神経を圧迫するような動作や姿勢を避けて安静とリラックスに努め、梨状筋のストレッチングで柔軟性を取り戻すことをお勧めします。ひどい場合は、痛み止めや筋弛緩薬の服用、または神経ブロック(局所麻酔を注射する)といった処置がとられることもありますが、原因の解決にはなっていませんよね。

それでは具体的な梨状筋のストレッチをご紹介します。床に座り、膝を90度に立てて足裏を床につけたポジションからスタートです。ストレッチする脚と反対側の足部を、ストレッチ側の膝に乗せます。ちょうど外くるぶしが膝の上に乗っかるような形です。この、上に乗せた脚の重みでストレッチ側の膝を内側に倒していき、膝の内側を床につけるようにしてぐーっと押します。床に座った殿部が床から浮いてしまわないよう注意しながら、30秒程度このままストレッチします。痛みのひどくない範囲で、お尻の深部筋が心地よく引き延ばされる感覚を意識してみてください。

ちなみに、歩くとき、着地したつま先が外を向く、いわゆる「ガニ股」の人、または仰向けに寝たときにつま先が大きく外に開いてしまう人、今回とりあげた梨状筋をはじめとする「股関節の外旋筋群」が硬く緊張したままで柔軟性が失われてしまっている可能性がありますよ。ぜひ、上記のストレッチを試してみてくださいね。


<プロフィール>

オークボアツコ

1978年3月生まれ。♀
本職は大学講師・理学療法士。その傍ら、絵の製作活動などやっています。
そんな諸々の素性が重なったご縁で、このたび「筋肉かるた」読み札の挿絵を担当させて頂きました。
趣味はランニングと飲酒を少々。筋トレでなく肝トレに励んでいる日々です。

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