オークボアツコの「筋肉豆知識」

オークボアツコの「筋肉豆知識」

菱形筋

もともとアジア人には「猫背」が多いと言われます。読者の皆さまはいかがですか?自分が猫背かどうか、チェックしてみましょう。枕などは使わず、床に仰向けになった際、両肩の後ろが床につきますか?床に両肩がつくのが正しい姿勢、肩が床から浮いていたら、いわゆる猫背傾向と言えます。つまり、猫背というのは単に背骨(=脊柱)が丸くなっている状態ではなく、肩甲骨が前方に引っ張られるように丸まっている状態を指す言葉。

今回の「菱形筋」は、背中側、脊椎(第6頚椎から第4胸椎にかけて)から外下方に向かって斜めに走行し、肩甲骨の内側縁に付着しています。頚椎から付いている上部を「小菱形筋」、胸椎から付いている下部を「大菱形筋」と分けて呼ぶ場合もあります。地方の方で、この部分を「けんびき」と呼ぶ方もいらっしゃいますね。私は広島在住時代、高齢の患者様に「先生、うち、けんびきがこって痛むんよねぇ」と言われて、場所が分からず困惑した記憶があります。肩甲骨の内側が痛む人、多いんですよね。かく言う自分もそうです。表面に大きく被さっている僧帽筋も肩こりの原因になりやすい筋ですが、その下にある菱形筋もまた、体の使い方によっては硬く緊張して血行不良となり、痛みを生じる原因となりやすい筋肉と言われます。菱形筋の役割は、肩甲骨を下方回旋し後方に引き寄せること。いわゆる「胸を張る」姿勢のときに使われる筋肉です。したがって、この筋が弱くてうまく働かない場合、猫背になりやすいのです。

ちなみに、猫背の女性は、客観的に見て実年齢より4~6歳程度老けてみえる、というアンケート調査の結果があります。外観的にも「体幹が丸く縮こまった状態」は加齢のサインと捉えられるわけですね。また、常に前かがみの姿勢を取り続けることで、臓器が圧迫されるとともに、呼吸の際に肋骨が大きく広がることができず、様々な不調の原因になるという説もあります。

きれいな姿勢を手に入れるため、菱形筋のトレーニング法のひとつ、テイクバック(take-back)をご紹介します。床にうつ伏せになり、首を左に向けます。右腕を90°横に上げ(=外転し)、肘も直角に曲げておきます。ここからゆっくりと肘を持ち上げるのですが、肩関節の動きだけで持ち上げるのではなく、肩甲骨を背骨側に引きつけるように意識してできるだけ高く持ち上げます。このまま5秒キープした後、ゆっくりと腕を下ろし、最初のポジションに戻って力を抜きます。これを、疲労を感じる回数まで反復し1セットとして、2~3セット行います。左も同様に行います。頻度は1日おき程度がよいでしょう。疲労が蓄積しないよう、トレーニング後には肩甲骨周囲のストレッチを行っておくことをお勧めします。 球技スポーツなどでボールを打つためにバットやラケットをバックスイングに入ろうとする時の、後方へ引く動作のことも和製語でテイクバックと言います。上肢を使うスポーツのパフォーマンスを上げるためには、腕の可動範囲を大きく保ち、柔軟に使えるようにしておくことも重要ですが、これは肩関節だけの動きでなく、肩甲骨の可動性のコントロールが大切になってきます。肩甲骨の動きには他にも多数の筋が関わっており、これらのどの筋にも短縮や拘結(凝り固まった部分)がなく柔軟に収縮できる状態にしておくことが、痛みや不快感なく様々な動作を円滑に行えるひとつのポイントとなります。今後の連載でも、肩甲骨に付着する様々な筋の紹介をして行きますので、総合的な理解に役立てて頂ければと思います。

なお、文頭に「アジア人には」猫背が多いと書きましたよね。どうやら、狩猟民族をルーツとする欧米人は槍や弓矢を使う背筋が強いため猫背が少なく、農耕民族をルーツとするアジア人は鍬などの農耕具を身体の前側で使っていたため背筋が弱めで猫背が多い、という説もあるようです。他にも、欧米では赤ちゃんをうつ伏せで育てるため、身体を反らせる背筋が強くなり、アジアではあお向けで育てるため、手足を前で使いやすく、どちらかといえば腹筋が強くなるのだ、という説も。ほかに「こんな説もありますよ!」というものがありましたら、ぜひ教えてくださいね。


<プロフィール>

オークボアツコ

1978年3月生まれ。♀
本職は大学講師・理学療法士。その傍ら、絵の製作活動などやっています。
そんな諸々の素性が重なったご縁で、このたび「筋肉かるた」読み札の挿絵を担当させて頂きました。
趣味はランニングと飲酒を少々。筋トレでなく肝トレに励んでいる日々です。

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