これが本当の健康づくり運動

これが本当の健康づくり運動

第15回 人と組んで行うストレッチング [後編]

【少年野球チームの問題点:その1】
 筆者が目撃した少年野球チームでは、もう1人の子どもが長座している子どもの背中を勢いよく押していました。このようにすると、伸ばそうとしているハムストリングや腰背部の骨格筋の筋紡錘が強く刺激されるため、反対に縮まってしまい、十分に伸ばすことはできません。

【少年野球チームの問題点:その2】
 子どもですから、どの程度の力で押すと安全で効果的なのかを知らないで、強く押しすぎる傾向があります。さらには、大人のコーチがのしかかれば、過大な力でかよわい子どもの骨格筋は引き伸ばされてしまい、骨格筋を損傷してしまう可能性が高くなります。

【少年野球チームの問題点:その3】
 トレーニングの効果は、トレーニング強度が高いほど効果も大きいと考える傾向にあります。体力の要素の中には、確かに、強度が高いほど効果も大きくなるものもありますが、全ての体力要素に当てはまるわけではありません。
 特に、柔軟性を高めるストレッチングの場合は、強く伸ばそうとすると、痛みを生じます。そうなると、その痛み刺激のために骨格筋は収縮し、伸びにくくもなるので、逆効果でもあります。

【少年野球チームの問題点:その4】
 「第2回:体前屈」で解説したように、脊柱の安定性を保つ役割を果たしている脊柱の靭帯を伸ばすようなストレッチングは避ける必要があります。しかし、この野球チームのコーチは、最新のトレーニング理論を知らず、自分が子どものころに教えられた方法をやみくもに踏襲しているだけなのでしょう。このため、伸ばすべきなのは(屈曲させるべきなのは)脊柱ではなく、股関節後面(ハムストリング)であることすら理解していないのでしょう。本来ならば、骨盤の上部を前方に押すべきなのに、背中を押していました(図1)。

図1 長座体前屈の正しい姿勢
図1 長座体前屈の正しい姿勢

【最後に】
 フィットネスのためのストレッチングでは、基本的には、静的なスタティックストレッチングを行う方が安全です。また、原則的には自分一人で行う方が無難です。
パートナーと行う場合は、そのパートナーの運動経験が豊富で、そのストレッチングで、①何を伸ばすのか、②どの方向に伸ばすのか、③どの程度の速度と力で伸ばすのか等を理解している必要があります。
①の「何を」とは、靭帯ではなく、目的とした骨格筋のことです。②の「どの方向」とは、目的としている骨格筋の走行方向のことです。③「どの程度の速度と力で」とは、伸張性反射を起こさない速度と力加減のことです。また、柔軟性には大きな個人差があるという認識を持っていることも不可欠です。もし、そうでなければ、ストレッチングは基本的には自分一人で行う方が安全です。
 柔軟性があまりにも劣っているために、適切なストレッチング姿勢を自分自身で保つことができない場合は、人に助けてもらうのでなく、タオルなどの補助具(図2)を工夫して使ってください。

図2 ハムストリングのストレッチング用の補助具の例
図2 ハムストリングのストレッチング用の補助具の例




<プロフィール>


西端 泉(にしばた いずみ)

川崎市立看護短期大学教授、日本フィットネス協会理事

主な研究テーマ:
高齢者の体力・健康を維持・増進するためのレジスタンス・トレーニング
安全性を優先した健康づくり運動の開発
認知症予防・改善のための運動
発達障害を有する子どものための運動


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