これが本当の健康づくり運動

これが本当の健康づくり運動

第12回 関節(膝)を回す準備運動


 古くから、準備運動として、膝や足首を回す運動が行われてきています。しかし、この関節を回す運動にも危険性が伴います。

【準備運動とは】
準備運動は、英語ではWarm-up(またはWarming-up)とよばれ、日本でもウォームアップ(またはウォーミングアップ)という言葉は普通に使われます。
 準備運動は、健康づくり運動やスポーツを開始する前に、心身を運動に適した状態にしたり、トレーニング時の活動レベルを高めたり、試合時の競技能力を高めたり、傷害を防いだりするために行われます。しかし、その準備運動そのものに危険性が伴うのであれば、本末転倒になりかねません。

【膝を回す運動】
 図1のように、しばしば、膝を回す運動が行われます。この目的は、膝周りの柔軟性を高めて、捻挫などの傷害を予防するためであろうと思われます。それでは、この膝を回す運動で具体的に何が伸ばされるのでしょうか。
 一つは、膝関節の屈曲や伸展に関わる骨格筋です。具体的には、大腿部の前面にあって膝関節を伸展させる働きをする大腿四頭筋と、大腿部の後面にあって膝関節を屈曲させる働きをするハムストリングなどの骨格筋群でしょう。しかし、膝を回す運動ではこれらの骨格筋がストレッチングのようにその限界近くまで伸ばされることはありません。このため、この膝を回す運動は、大腿四頭筋やハムストリングのストレッチングの代わりの運動としては全く不十分です。
 骨格筋以外に伸ばされるのは、靭帯です。特に、膝を外側や内側に回した際には、膝関節の左右方向の安定性を保つ働きをしている内側側副靭帯や外側側副靭帯が伸ばされます。靭帯を伸ばす運動を繰り返し行っていれば、当然のことながら、その靭帯は伸びていきますので、関節を支えるという本来の役割を十分に果たすことができなくなる恐れがあります。
 内側側副靭帯や外側側副靭帯が伸びてしまうと、膝関節の左右方向の安定性が悪くなるので、O脚になったり、X脚になったりする恐れもありますし、その結果、半月板などに偏った負担が加わるようになり、将来的には変形性膝関節症などの問題を起こしやすくなる恐れもあります。
 このため、従来の膝を回す運動は「やめたほうがよい運動」といえます。

図1 膝を回す運動
図1 膝を回す運動

【お勧めの膝を回す運動】
 これまで当たり前のように行ってきた膝を回す運動をいきなり「やめろ」といわれても、やらないことに不安を感じる人もおられることと思います。そこで、代わりの方法をご紹介しましょう。
 最初に、準備運動は、英語ではウォームアップとよばれることを確認しました。ところが、準備運動という言葉にはなく、ウォームアップという言葉には含まれる、ウォームアップとしての重要な要素があります。それは、「暖める」ことです。
 骨格筋や、その骨格筋の働きを調節する役割を果たしている神経は、暖めることによってその能力が高まることがわかっています。ところが、従来の「膝を回す」運動は、能動的に膝を回すのではなく、体重の移動などによって受動的に膝を回す運動であるため、膝関節周りにある骨格筋はあまり能動的には活動しません。このため、それらの骨格筋の筋温もほとんど高まりません。
 もう一つの重要な準備運動の目的は、能動的に動作を行うことによって神経系も能動的に働かせ、神経系の準備状態を高めることです。このためには、膝を回すのであれば、受動的にではなく、能動的に回す方が望ましいと考えられます。
 そこで、お勧めの方法は、片足を持ち上げ、空中で、足先で円を描くように、能動的に膝を回すことです。このようにすることで、大腿四頭筋やハムストリング等の大腿部にある骨格筋は能動的に働きます。また、足を空中に浮かせているため、回す膝には体重は全く加わっていない状態になるため、内側側副靭帯や外側側副靭帯にも当然のことながら体重の負荷は加わらないので、大きな負担を加えることなく、比較的安全に実施することができます。さらには、支えている方の脚は片脚立ち状態になるため、このこと自体も主運動に備えたリハーサルともなりますし、バランス能力を高めるトレーニングにもなるので、より傷害予防に役立ちます。

図2 お勧めの膝を回す運動
図2 お勧めの膝を回す運動



<プロフィール>


西端 泉(にしばた いずみ)

川崎市立看護短期大学教授、日本フィットネス協会理事

主な研究テーマ:
高齢者の体力・健康を維持・増進するためのレジスタンス・トレーニング
安全性を優先した健康づくり運動の開発
認知症予防・改善のための運動
発達障害を有する子どものための運動


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