これが本当の健康づくり運動

これが本当の健康づくり運動

第8回 腹筋運動(上体起こし運動) [後編]

【カールアップの問題点】
前回は、カールアップとシットアップの違いを解説し、シットアップの問題点を指摘しました。今回はカールアップを解説します。
カールアップでは、腸腰筋はほとんど活動しないはずなので、椎間板や椎体に加わる圧縮力はその分小さいはずです。表1には3種類のカールアップにおける腰椎に加わる圧縮力が示されています。
最も圧縮力が強いのは「膝を交差させたカールアップ」です。これは、一般的にはクランチとかクランチャーとよばれる腹筋運動です。でも、その値は、わずかではありますが、3000ニュートンを下回っています。また、普通に行われるカールアップの場合は、足を固定してもしなくても、腰椎に加わる圧縮力は2000ニュートン前後なので、全く問題はなさそうに思われます。しかし、それでも問題があります。
 その問題点は、カールアップの最中に腰椎を屈曲させることです。

表1 腹筋運動に伴う腰椎に加わる圧縮力(McGill, 2002)
表1 腹筋運動に伴う腰椎に加わる圧縮力(McGill, 2002)

【腰椎を屈曲させると】
 従来のカールアップでは、腰背部を床に押し付けるように(ペルビックチルトともいわれる)、すなわち、腰椎を屈曲させながら実施するように指導されてきました。仮に意識的に腰椎を屈曲させようとしなくても、腹直筋が恥骨に停止していることによってカールアップの最中には骨盤を後傾させる力が加わるので、腰椎は自然に屈曲します。この結果、腰椎に加わる圧縮力が、椎間板ないしは椎体に偏って加わるのです(図1)。
 健康な腰椎は、立位姿勢では前弯しています。前弯する理由は、椎体の前と後ろ側の厚みがわずかに異なっているからです。前の方がやや厚いのです(図1では上側)。そのような状態の腰椎を屈曲させると、椎間板や椎体は前側(図1では上側)で強く圧縮されることになり、椎体の圧迫骨折や椎間板の損傷を引き起こす可能性を高めます。

図1 腰椎の屈曲(下)に伴う圧縮力の偏り
図1 腰椎の屈曲(下)に伴う圧縮力の偏り

【自然な腰椎の前弯を保つ】
 椎体や椎間板に偏った負担が加わらないようにしながら、腹直筋を強く活動させるためには、腰椎の自然な前弯を保ったままで、カールアップを行う必要があります。その方法を図2に示しました。

図2 腰椎の自然な前弯を保ったまま行うカールアップの方法
図2 腰椎の自然な前弯を保ったまま行うカールアップの方法

反対側の手を頭の後に当てて、頭部を支えてもよい。ただし、手で頭部を引っ張らないように支えるだけにすること。


 まず、従来のカールアップと同様に、膝を立てて、仰向けに寝ます。ここからが違います。健康な腰椎は前弯しているので、腹筋群に力を入れていないかぎりは、腰椎と床との間にすき間ができるはずです。そのすき間が、カールアップの最中に押しつぶされないようにする必要があります。その方法はいくつか考えられますが、最も単純な方法は、自分の片方の手のひらないしは前腕を腰椎と床(マット)の間に差し込むことによって、腰椎の前弯(骨盤の前傾)を維持する方法です。反対側の手は後頭部に当てて頭部を支えます。
 従来は、両手で頭を支えることが多かったと思いますが、両手で頭を支えると、手で強く頚椎を屈曲させてしまい、頚椎を傷めてしまう恐れがあるので、この方法は、頚椎と腰椎の両方を同時に守る一石二鳥の方法です。
 柔らかいマットを敷いていると、手がマットの中に埋まってしまい、十分な役割を果たさない場合があります。その場合は、さらに、タオルなどを折り畳んだものを差し込んでもよいと思います。
 肩甲骨辺りまで床から持ち上げるように、上半身をカールアップさせます。腰椎付近まで床から離れるほど上半身を上げると腰椎が屈曲するので、上げ過ぎです。
 筆者は、最近はアブマットを使用して、腰椎の前弯を保ちながら、カールアップを行っています。「アブマット?」と思われた方は、ネットで検索していただくと、たくさんの情報が見つかると思います。ただし、画像検索した際に示されるトレーニング動作の多くは、前回問題点を指摘したシットアップになってしまっているので、まねしないようにしてください。骨盤が動かない範囲で、実施する必要があります。


【最後に】
 しばしば目にする運動の中に、安全性や効果に問題があるものがたくさんあります。2回に渡り、よく見られる腹筋運動の問題点を紹介しました。
 紹介したAxlerとMcGillの研究は、多くの場合、白人や黒人を対象にしています。アジア人の腰椎は白人や黒人のものほど前弯していません。さらに、高齢者になると、骨粗しょう症によって腰椎の前弯が失われていることもあります。しかし、腰椎に加わる圧縮力を均等に分散するためには、人種に関わらず、ひとりひとりの自然な腰椎の並び方(アライメント)を維持したまま腹筋運動を行ったほうが安全であることに、違いはありません。




<プロフィール>


西端 泉(にしばた いずみ)

川崎市立看護短期大学教授、日本フィットネス協会理事

主な研究テーマ:
高齢者の体力・健康を維持・増進するためのレジスタンス・トレーニング
安全性を優先した健康づくり運動の開発
認知症予防・改善のための運動
発達障害を有する子どものための運動


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