オークボアツコの「筋肉豆知識」

オークボアツコの「筋肉豆知識」

三角筋

今年も終わりに近づいて、この「筋肉豆知識」も残すところあと3稿となりました(「筋肉かるた」45枚分)。毎回ランダムに一つずつ筋肉を取り上げているのですが、こんなにメジャーな筋肉がまだ残ってましたね。今週は三角筋です。

腕の付け根、肩の外側を広く覆う筋肉で、逆三角形の形をしています。表面に存在する筋肉なので、触りやすいですよ。体脂肪の薄い方や、腕の筋肉が発達している男性の方などは、筋肉の輪郭がくっきりと見えます。たとえばドラ〇ンボールの〇悟空、肩をまくりあげた修行着から突き出る肩から腕のラインを形作作っている筋肉です(笑)

三角筋の‘逆三角形’の底辺は鎖骨の外側3分の1から肩の先端をぐるりとまわり、肩甲骨のでっぱり部分(肩甲棘)あたりまでを覆っており、逆三角形の頂点は上腕骨の真ん中あたりにあります。肩パッドというか肩のプロテクターというか…そんな感じの位置ですね。左の手のひらを右腕の付け根(外側)を広く覆うようにあてて触り、右腕を外へ90度、鳥が翼を大きく広げるように上げて行ってみてください。ぐっと肩先のすぐ下にある筋肉が固く収縮してくるのが分かりますよね。左の手のひらの位置は変えずに次は右腕を「前ならえ」のように前方へ持ち上げてみます。そうすると今度は、さっきよりも肩の前方の部分が固く収縮するのが分かりますか?次は、手のひらの位置は変えずに右腕を後方へ引きます。そうするとちょうど左の指先で触っているあたりの、肩の後方の筋肉がぐっと収縮してきますよね。いま左の手のひらで覆っている部分にかけて、すべて三角筋の線維が走行しているのですが、このうち前部線維は腕を前方へ上げる動き、側部線維は腕を外へ広げる動き、後部線維は腕を後方に引く動きをそれぞれ担当しているのです。

我々は、日常動作で手を使うとき、腕を下ろしたまま手作業をする場面ってほとんどないですよね。腕ごと持ち上げた状態を様々な角度で空中でキープし、手先指先を使うわけです。すなわち三角筋は普段から腕を固定しておくためにかなり使われている部分なのですね。したがって、それほどボリュームが落ちやすい筋肉ではないのですが、ここを鍛えておくとビジュアル的にカッコよく決まります。つまり、三角筋を鍛えると肩周りが大きく見える…肩幅を広く見せることが出来るので、逆三角形の上半身を演出しやすくなるわけですね。男性だけでなく女性も、相対的にウエストのくびれを強調できますのでおすすめです。脂肪をまとって丸くなってしまっている肩のラインも、その下の筋肉層を意識的に育てることでずいぶん印象が変わってきますよ。人間、生まれ持った骨格はそうそう変えられませんが、そこにまとった筋肉をボリュームアップすることで手に入るシルエットもありますから、あきらめずにボディ・デザイン、がんばりましょう。

さて、この三角筋をトレーニングするためには、三角筋の機能そのままの動きが使えます。
①前部を鍛えるためには前方に腕を上げる
②側部を鍛えるためには外に腕を開く
③後部を鍛えるためには後方に腕を引く
シンプルです。ただ、自分の腕の重みだけだと少し負荷が足りないので、ダンベルなんかがあるといいですね。各動作とも、肘はのばしたまま、上げ下ろしのスピードは極力ゆっくりと。持ち上げる高さは、①と②は90度の高さまで、③は上がる高さまでで結構です。①を20回、②を20回、③を20回、といった感じで、三角筋がダルく疲労してくるくらいの回数まで反復しましょう。

ちなみに重さの設定ですが、ダンベルを持ってみて、肘を伸ばしたまま②の動きをしてみたとき、側方に90度ゆっくりと持ち上げていく最終域で「おっ、ちょっとクルなっ」というくらいの重みが適切でしょう。女性なら、500mlのペットボトルなどを代用しても良いかもしれません。効率よく鍛えようとして重すぎる負荷を選択すると、筋線維にダメージを来たす可能性がありますから注意しましょう。

そして、大切な注意点がもう一つ。それはトレーニング中に「肩をすくめない」ことです。首から肩甲骨にかけて、広く表面を覆う筋肉に「僧帽筋」があるのですが、この僧帽筋が肩甲骨に付着する位置が、まさに三角筋のそれと同じような部分なのです。すなわち、三角筋を使っているつもりでも、三角筋が弱かったり、負荷が高すぎたりすると、三角筋でまかないきれない筋力分を僧帽筋が代償して頑張ってしまうため、有効な三角筋のトレーニングになっていない事例がしばしばあるのです。したがって、きっちり三角筋に効かせるコツは、腕をだらりと下げている状態の肩の位置から‘肩の高さが変わらないように腕を持ち上げていく’ことなのです。

これは、言うなれば、肩こりのひどい人の状態を説明しているとも言えます。すなわち、日常生活で手先を使う際、三角筋の力が弱いために自分の腕の重量を支えておけず、肩をすくめるように僧帽筋に力を入れることで何とか腕の位置を保とうとしている。常に僧帽筋が緊張状態にあるため、筋は固くなり、血行が滞り、「肩こり」としてつらさや痛みが出てきてしまうのです。肩こり解消のために僧帽筋のストレッチやマッサージをするのもいいのですが、その原因が三角筋の筋力不足にある場合もあるわけですね。

三角筋は表層にあるだけに、トレーニングの効果が目に見えやすいです。嬉しくなってムッキムキに鍛えたくなってしまう気持ちもわからなくはないのですが(しかも筋肉痛になりにくい筋肉なので、頑張れちゃうんですよね…)、たとえば投球動作などを行うスポーツ種目に携わっている方などはちょっとご注意を。肩を広く覆う筋肉なわけですから、ボリュームアップしすぎると、肩をフル可動域で動かしづらくはなります(180度上方に腕を上げたりするような場合)。実は、この「腕を上げる」という動きは上腕骨だけで行われているのではなく、その3分の1程度は肩甲骨が上方に回旋するようにして動くことが必要なのですが(「肩甲上腕リズム」といいます)、この正常な腕の拳上のための複合的でなめらかな関節の協調を、筋のボリュームで邪魔してしまっては元も子もないですからね。

肩関節の運動はこのように、上腕骨の球状の骨頭と肩甲骨のくぼみから成る肩甲上腕関節、そして胸郭と肩甲骨面の間のすべるような動きが合わさって、広い可動域を保つことが出来ていますので、どこか鍛えたい筋肉がある場合は、不要な動きが入らないよう厳密に意識して行う必要があるわけです。あ、でもここでひとつご紹介。かのアーノルド・シュワルツェネッガーがお気に入りだった肩のトレーニング、その名も「アーノルド・プレス」というのがあるようですよ。上腕骨の回転を伴うため、三角筋全体を複合的に収縮させることが可能なトレーニングとのこと。興味のある方はぜひ調べてトライしてみてください。実際にパフォーマンスに生かせる筋肉をつけたい方には、こういった複合的な動きを伴うトレーニング種目を組み合わせることは望ましいかもしれませんね。

今年一年を振り返りつつ、年末年始のだらけがちなカラダを少しでもカッコよくみせるために、テレビでも見ながらダンベルを持って、しっかりした肩のラインを作っちゃうのはいかがでしょう。ウェスタン・ラリアットをくりだすために腕をぐっと横に上げて前を見据えるスタン・ハンセンの三角筋のように(なぜその例え…)格好いい筋肉も夢ではない!ぜひぜひ、軽めの負荷からチャレンジしてみてくださいね。

<プロフィール>

オークボアツコ

1978年3月生まれ。♀
本職は大学講師・理学療法士。その傍ら、絵の製作活動などやっています。
そんな諸々の素性が重なったご縁で、このたび「筋肉かるた」読み札の挿絵を担当させて頂きました。
趣味はランニングと飲酒を少々。筋トレでなく肝トレに励んでいる日々です。

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