オークボアツコの「筋肉豆知識」

オークボアツコの「筋肉豆知識」

母指対立筋

母指(ボシ)、とは親指のこと。幼稚園などで、親指を‘お父さん指’、人差し指を‘お母さん指’なんて教えてもらったはるか昔の記憶がありますが、解剖学用語では親指を母指と呼びます。どうでもいい話ですが、学生時代からのワタシのあだ名、「ボシ」といいます。…初っぱなから、ほんとにどうでもいい話をしてしまいました。

ちなみに、人差し指は「指し示す指」なので「示指(ジシ)」、中指はそのまま「中指(チュウシ)」、薬指は「指輪をはめる指」なので「環指(カンシ)」、小指もそのまま「小指(ショウシ)」と呼びます。で、今回の筋肉の名前、母指「対立」筋と言いますが、別に親指が何かを相手に戦っているわけではなく、親指の腹を小指の腹(指先ではないことに注意)とグッと近づけるような動きを「対立」と呼ぶため、母指を対立させるための筋、という名前がついているのです。

日常あまり意識することはないかと思いますが、手の親指は非常に重要です。親指だけが他の4本の指と向かい合うような方向に付いているため、上手にモノを持ったりつかんだりすることができるのです。指の付け根の関節は自由度が高く、手のひら側に曲げたり(屈曲)、手の甲側に反らしたり(伸展)、外に開いたり(外転)、内側に閉じたり(内転)と色んな方向に柔軟に動かすことができます。これは、親指の付け根の関節が、自転車のサドルを垂直に重ね合わせたような形(鞍関節、あんかんせつ)をしていることに由来します(指の関節は曲げ伸ばしという一方向にしか動きませんよね。これを、ちょうつがい関節と呼びます)。ひとつの関節の動きを表現する言葉だけでなく、親指と小指を近づけるという複合的な動きにまで名前がついているのは、ちょっと特殊なことのように思います。

でも、かるたの読み札を見ると、ああ、これ日本人は毎日のようにやっている動きだよなと納得がいきませんか?ご飯茶碗を支える手、親指と小指でフチをしっかりホールドしていますよねえ。親指と(小指だけでなく)他の指を対立させる動きができるからこそ、ヒトはこんなに器用に指先を使う作業が得意なのです。

手のひら側の、親指の付け根、個人差はあれど、ぷっくりとふくらんでいますよね。ここを母指球(ぼしきゅう)と呼びます。この母指球を形成しているのが、親指を曲げる短母指屈筋、親指を外に開く短母指外転筋と、今回の「母指対立筋」です。母指と小指を対立させて強く押し合っていると、親指の付け根がじーんと疲れてきますよね。まさにここの筋肉です。日常では、あまり長時間収縮させ続ける必要もないので、持久力はあまりない筋肉でしょう。ただ、重いものをしっかりつかんで運ぶようなお仕事をされている方や、重労働でなくても、例えば針を持って趣味のお裁縫や刺繍、編み物をされる方はこの筋肉が強く持久力もあるでしょうし、文字や絵を書くのが好きで、しかも筆圧の強いタイプの方は、しっかりとペンや筆を固定し紙に押し付けて長時間書き物をすることに慣れているかもしれませんね。

ワタシは自分自身「書くこと」も「描くこと」も好きですし、職場では「板書の多いセンセー」と認識されています。書くことで記憶に残るし、後で見直して分かりやすいノートを作ることを目標にしていたら自然とそうなってしまったのですが、最近の学生さんは「書く」ことに慣れていないのか、講義終了後に「手が疲れた〜」「手がだるい〜」と手をブラブラさせてバテています。すみません…。

でもね、しっかり母指対立筋を使ってあげないと、ふっくらと盛り上がった母指球が作れませんよ。実は、手相学では、このふくらみが大きく分厚い人ほど愛情深く、健康的な色気にあふれていてモテるタイプ、生命力が強い、とされるそうです。あなたの母指球、いかがですか?

個人的にはあまり占いを信じる方でもないのですが、この母指球に関する話は意外と信憑性があるんじゃないかなと感じています。なぜか。ヒトだって生物のひとつの種、異性と‘つがい’を作って、後世に自分の遺伝子を残すことを本能的な目的として持っています(ヒトは進化の過程で巨大な大脳を発達させてきてしまったので、理性とか世間体とか性癖とか、まぁ色々なことに本能が左右されもするんですけどね)。そしてそこには、どうせ残すなら優秀な遺伝子を残すために優秀な異性とペアになりたいという本能もあるはずなのです。

優秀な異性、それは生物学的に考えれば、健康的で生命力に溢れた生き生きした個体なのではないでしょうか。指先で器用な作業をこなしたり、力強く重いものを運んだり、生き生きと趣味や勉学に打ち込んだり、(あと、重いラーメンどんぶりをしっかり保持したり?)…力強く人間らしい生活を送っていますよというアピールが、この母指対立筋を含む母指球に現れているのではないでしょうか。

ともあれ、使いすぎると疲れちゃうので、反対の親指と他の指を「対立させて」、母指球をはさむようにして時々マッサージもしてあげてくださいね。ふっくらとしてほんのり赤みがさした、色っぽい母指球で幸せをゲットしようではありませんか!


<プロフィール>

オークボアツコ

1978年3月生まれ。♀
本職は大学講師・理学療法士。その傍ら、絵の製作活動などやっています。
そんな諸々の素性が重なったご縁で、このたび「筋肉かるた」読み札の挿絵を担当させて頂きました。
趣味はランニングと飲酒を少々。筋トレでなく肝トレに励んでいる日々です。

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