オークボアツコの「筋肉豆知識」

オークボアツコの「筋肉豆知識」

脊柱起立筋

読者の皆さま、こんにちは。オークマアツコ改め、「オークボ」アツコです。一身上の都合により、お名前をマイナーチェンジいたしました。web連載上で大々的に発表することでもないなと我ながら思いますが、まあこれも何かの記念です。今後とも変わらぬご愛顧をお願いいたします(笑)

さて、気を取り直して、背すじを伸ばして、本日の筋肉「脊柱起立筋」のお話を。背骨のことを脊柱と言い、これを起立させるために働いているのが脊柱起立筋群です。背中の深い層に存在し、脊柱の左右を首から腰にかけて長く走行していますが、「筋群」と言い換えたとおり、多くの筋の総称です。背中を触ってみると、脊柱の部分は凹んでおり、その両わきの背筋部分は高く盛り上がっていますよね。この盛り上がりを形成しているのが脊柱起立筋群です。細かく分けると、より脊柱側にあるものから順に、棘筋、最長筋、腸肋筋と名前がついています。さらに、それぞれを上中下の位置ごとに分けた名前があり、棘筋は頭棘筋・頸棘筋・胸棘筋、最長筋は頭最長筋・頸最長筋・胸最長筋、腸肋筋は頸腸肋筋・胸腸肋筋・腰腸肋筋と呼ばれています。それぞれの筋の付着部と走行が微妙に異なり細分化しているため、脊柱(だるま落としのコマが積み重なったような構造です。ひとつひとつのコマ=椎骨、の間に、椎間板というクッションが挟まれています)の柔軟な動きに対応できるようになっているのです。これら脊柱起立筋群が左右同時に働けば、背中をぐっと反らす状態になりますし、右側だけが働けば、右後方に背中がのけぞる格好になります。

マッサージ屋さんに行くと、首から腰にかけてのライン、まさにこの脊柱起立筋を重点的に施術してくれるところが多いと思いませんか?地球上に生きる我々には絶えず1Gの重力がかかっているわけですから、重たい頭を乗っけた脊柱を重力に負けないようしっかり立たせている脊柱起立筋は、常に筋力を発揮している状態で、寝ている時以外は休まる暇がないのです。勿論、物を持ち上げたり、椅子から立ち上がったり、上に伸び上がったり、ジャンプするときに素早く上体を起こしたり…といった様々な動作時には、安静にしている時以上の収縮力が必要となります。つまり、非常に疲労が蓄積しやすい部分と言うこともできるでしょう。例にもれず、ワタシも常々、しかも長年、脊柱起立筋群のコリと痛みに苛まれております。理学療法士のくせに…。

この筋肉の「コリと痛み」ってつらいですよね。以前、僧帽筋のところで肩こりのお話をいたしました。簡単に言えば、筋肉に無理な緊張状態が強いられて硬くなり、血流が滞ってしまっている状態です。常に頑張ってくれている脊柱起立筋を、セルフストレッチで柔らかく保てるよう、気づいたときにケアしておきましょう。椅子に腰掛け、頭の後ろで両手を組み、首と背中の力を抜いて、息をふーっと吐きながら、おへそを覗くように深くおじぎをしていきます。反動をつけず、重力にまかせて両手の重みをそのまま後頭部にかけるようにし、首の後ろから背中の中央にかけての部分が気持ちよく引き伸ばされる感じを味わってください。身体をさらに深く、脊柱を丸めるようにおじぎして行くと、腰の方まで伸びてきます。前屈できるところまで前屈したら、そのまま両手をだらりと下げて上半身を脱力します。しばしそのまま脱力したら、姿勢を元に戻して行きますが、このときいきなり戻さずに、脊柱を形成する1つ1つの椎骨を下から順に積み上げて行くイメージでゆっくり戻して行ってください。回数などに特に決まりはないので、背中の張りや痛みを感じやすい方は、休み時間などの習慣にすると良いでしょう。

ちなみに、脊柱起立筋群は背中を反らす、深部のいわゆる「背筋」です。ヒトの脊柱は椎骨がまっすぐ垂直に配列しているわけではなく、正常姿勢ではゆるやかなS字カーブを描いています。すなわち、頸椎は前に湾曲し、胸椎は後ろに湾曲し、腰椎は前に湾曲しているのです。椎骨がまっすぐ直線上に積み上げられているだけでは、重力下で歩いたり走ったりする衝撃に3次元的に対応し、柔軟なバネのように耐えることができません。脊柱のカーブを美しく柔らかく保っておくには、身体の前にある腹筋群と、身体の後ろにある背筋群がバランスよく働いている必要があるのですが、脊柱起立筋群が相対的に弱い場合、脊柱を立てる方向に引っ張っておくことができず、重力に負けて背中がまるくなり、椅子の坐面に対して骨盤を立てて坐骨で座るというよりは、尾てい骨あたりで座っているような姿勢になります。普段、家でだらりとテレビを見ているような時、気を抜いていると背中がまるくなりがちではありませんか?歳を取ってくると、全体的に筋力が低下してくるため、重力に抗することが難しくなってきます。特に、全身の各パーツを「曲げる」筋力の方が「伸ばす」筋力よりももともと強い場合が多いため、高齢になってくると脊柱を伸ばして保てず、背の曲がってくる方が増えるのです。脊柱起立筋群を退化させないためには、まず毎日の姿勢を意識すること。腰を反らしすぎる必要はありませんが、重力に負けた「老けた」姿勢にならないよう、気づいたときにその都度しゃんと背すじを伸ばしましょう。自分の頭と上半身の重さに負けないように。

さらに鍛えようという方は、うつ伏せに寝て手の平を肩のラインあたりにセットした状態からのバックエクステンション(上体反らし)を行うと良いでしょう。脚を押さえておいてくれるパートナーがいなくても大丈夫。床から胸と脚を浮かせて10秒キープし、降ろします。高く上げすぎようと頑張ると、腰に負担がかかりますので、むやみに反りすぎないように。背中に力が入ってるな~と感じる状態で十分です。10回×2~3セット程度が目安ですが、日常的に酷使し続けている筋肉なので、必要以上に疲労を溜めずきちんと回復できるよう、疲れたら休憩を。過負荷になりすぎないよう注意しましょうね。さあ、明日からも背すじを伸ばして若々しく前向きな人生を送ってまいりましょう!


<プロフィール>

オークボアツコ

1978年3月生まれ。♀
本職は大学講師・理学療法士。その傍ら、絵の製作活動などやっています。
そんな諸々の素性が重なったご縁で、このたび「筋肉かるた」読み札の挿絵を担当させて頂きました。
趣味はランニングと飲酒を少々。筋トレでなく肝トレに励んでいる日々です。

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