オークボアツコの「筋肉豆知識」

オークボアツコの「筋肉豆知識」

ハムストリングス

大腿後面にある、大腿を後方に引く&膝関節を曲げる働きをもつ筋肉群を総称してハムストリングスと呼びます。含まれるのは大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋の3つ。名前の「ハム」は、皆さんも知っているあのハムです。もともとはゲルマン語で「もも肉」を意味する単語とのこと。そもそもハムという食べ物はブタのもも肉の塊を塩漬けしたものだったようです(今の日本では、ももハムではなくロースハムが主流ですね。ちなみにロース肉は肩から腰にかけての背肉の部分で、もとは「ローストするのに適した部分」という意味だそうですよ)。

ハムストリングスの3つの筋肉は、骨盤の坐骨結節(椅子に座った状態で、左右のお尻の下に両手を敷くとゴリゴリと触れる骨の出っぱり部分)から始まり、股関節と膝関節をまたいで、膝下に付着しています。膝を曲げた後ろのくぼみを膝窩(しっか)と呼びますが、ここに指を入れ、外側にあるすじを触ってみてください。これが大腿二頭筋の端っこの腱です。反対に、膝窩の内側にあるすじは(2本あります、触り分けることができるでしょうか?)、半腱様筋と半膜様筋の端っこの腱です。

「ストリングス」は「ひも」という意味で、本来ハムストリングスはこの腱のことを指す名称なのです。どうやら昔はハムを作るとき、この腱の部分を使ってつり下げていたらしいですね。

さて、ハムストリングスは最も肉ばなれが起こりやすい部分です。この「肉ばなれ」という言葉、よく耳にはしますが、どういう状態を指すかご存知でしょうか。別に、骨から筋肉がビロビロに剥がれてしまうわけではなく(←怖い…)、スポーツ動作時など、筋肉に力を入れている状態のときに、急激に強制的に引き伸ばされたりして筋膜や筋線維の一部が損傷する状態を指します。

ヒトの筋肉や腱の柔軟性は若いほど高く、20歳を越えた頃から徐々に低下するため(焼き鳥なんかもそうですよね。若鶏の肉は柔らかく、親鶏は硬くて歯ごたえがあるでしょう)、子供や若者よりもオトナの方が肉ばなれの発症率は高くなります。また、大腿後面のハムストリングスよりも大腿前面の大腿四頭筋(=股関節を曲げる+膝を伸ばす働き)の方がよく発達しているヒトが多いため、前後の筋力がアンバランスとなりやすく、太腿に急激な筋収縮が起こった際に、相対的に弱いハムストリングスがついて行けず損傷が起こってしまう、という機序もあります。したがって、ハムストリングスの柔軟性を保っておくことと筋力をつけておくことが肉ばなれ等の筋損傷の予防につながります。

ハムストリングスの簡単な柔軟性チェックのやり方は、皆さんもよく知っている「立位体前屈」です。脚を閉じて立ち、膝裏をしっかり伸ばしたまま身体を前に曲げるアレです。適当な台の上に立って立位体前屈を計測した場合(指先は伸ばしておき、台に届く状態が0cm、それ以上柔らかくて台の下まで指先が届けばプラス〇cmとします)、平均値は20代男子で12~15cm、女子で16~18cmです。どうでしょう、マイナス値の方(床に手が届かない方)いらっしゃいませんか?「脚が長いから仕方ないのよネ~」なんておっしゃらず、ちょっとしたストレッチを日課にしてみてはいかがでしょう。

短時間で簡単に行える「ジャックナイフストレッチ」をご紹介しておきます。まず、両脚を抱えるようにしてしゃがみ、胸を太腿の前面にぴたりとつけます。ここから両手を後方に回し、両側の足首、アキレス腱あたりを手でしっかりとつかんで、ゆっくりと息を吐きながら脚を伸ばして行きます。胸と太腿が離れないよう気をつけて。膝が伸びきらない場合は、できるところまでで結構です。伸ばせるところで伸ばしたら10秒キープします。身体がふたつに折り畳まれた様子がジャックナイフみたいでしょう?これを朝夕に5回ずつ繰り返すと、成人でも1ヶ月で平均20cm記録が伸びるとのデータがあるそうですよ。20cmってすごいな。継続は力なりですね。

また、ハムストリングスを日常動作でしっかり鍛えるには、きびきびと大股で歩くことがお勧めされるのですが…「大股で歩く」と表現すると、「そうか、前へ大きく足を踏み出せばいいのね!」と理解される方も多いと思うので、ひとつ注意点を。

股関節を曲げて脚を大きく前へ振り出す動作を行っているのは大腿の前面にある大腿四頭筋です。これも立ち上がり動作などに関わる重要な筋肉なのですが、もともと発達しやすい上に、鍛えるほどに筋肉が太く育ちがち。すっきりと引きしまった美脚を目指すなら、ハムストリングスを意識して、後ろの脚を大きく「蹴りだす」ことを重視して歩くといいでしょう。これだと大殿筋もしっかり使われますので、キュッと上がったヒップも期待できます(大殿筋の回を参照)。

ハムストリングスは「アクセル筋」とも呼ばれることがあるようです。前進する推進力をしっかり身につけて行きましょう。さあ、前へ前へ!


<プロフィール>

オークボアツコ

1978年3月生まれ。♀
本職は大学講師・理学療法士。その傍ら、絵の製作活動などやっています。
そんな諸々の素性が重なったご縁で、このたび「筋肉かるた」読み札の挿絵を担当させて頂きました。
趣味はランニングと飲酒を少々。筋トレでなく肝トレに励んでいる日々です。

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