オークボアツコの「筋肉豆知識」

オークボアツコの「筋肉豆知識」

眼輪筋

眼輪筋は、目の周りをぐるりと取り囲んでおり、その一端が皮膚に付着する「皮筋」です。表情を作る表情筋の一つですね。上下の瞼を合わせる、つまり「目を閉じる」働きをしています。

私たちは普段、意識しなくても左右同時に瞬きをしており、わざわざ片目ずつ開閉したりはしていません。パチッと片目だけカッコ良く閉じるのをウィンクと言いますが、実はこれ、かなり意図的に注意して行わないとできない動作なんです。したがってウィンクして見せる(目くばせする)というのは、何らかの意志を強く伝えようとする時の万国共通の合図となっているのです。個人的には、飲みの席か何かで、離れた席から意味ありげにウィンク飛ばされたりなんかすると、ドキッとしちゃったりしますね。ええ、簡単な女ですアタシ。

それは兎も角、皆さんはウィンク得意ですか?両目をつぶってしまったりしませんか?あれ、実は脳からの神経の経路に関係があるのです。
表情筋を動かす指令を伝えるのは脳から出ている顔面神経ですが、経路の途中で左右の神経線維が交差する構造をしているため、右脳が左顔の筋肉を、左脳が右顔の筋肉を動かす仕組みになっています。ただしこれは顔の下半分だけ。顔の上半分の筋肉につながる顔面神経の束は、一部、左右交差していないものがあるのです。つまり、おでこや目元に関しては、右脳から出た指令だったとしても左右両方の筋肉が動いてしまいやすいし、左脳から出た指令だったとしても同様だということです。

意識せずとも瞬きが左右同時に起こるのはこのおかげですし、その反面、口元なら左右別々に動かすのは簡単ですよね。意識的に右目を開けたままにし、意識的に左の目だけ閉じる、なんていうのは身体にとってかなり複雑な命令なのです。

この複雑な随意運動ができるのは、そう、オトナになった証拠。ウィンクのできない読者様、あなたはまだまだコドモなのですよ。…いやいや、これは冗談ではなく、ヒトは脳や神経の発達が未熟なままで生まれてくるため、小さいうちは複雑な動きができません。成長に伴い、神経回路ができ上がってきて、左右の大脳皮質間を連絡する通路が完成し成熟して初めて、複雑な命令系統が処理できるようになるのです。

ただ、日本人はうまくウィンクできない人の割合が高い(約7割)そうです。これって多分、あまり日常的にやる動作ではないため、運動学習ができていない状態なのではないかなと思います。神経も通っていて、眼輪筋も動くわけだから、ちゃんと反復練習すればできるようになるはずです。

そんな話を知人としていた時、興味深いことがありました。「僕、左はウィンクできるけど、右はヘタクソだなあ」と言ったあと、「ねえ、食べ物を咀嚼するとき、左ばっかり使っちゃうんだけど、これと何か関係ある?」と聞かれたのです。確かに、癖で、片方の奥歯でばかりものを噛む人っていますよね。よく使っている側の筋肉の方が発達していて動かしやすい、というのは、ありそうなハナシです。試しに周りの人たちにアンケートをとってみると、ウィンクが得意な側と咀嚼しやすい側、どうも相関がありそうなんですよねえ。これを読んでいる皆様はいかがですか?いつかほんとに、研究のテーマにして調査してみようかしら。

さて、それは兎も角。眼輪筋の筋力が衰えると、まぶたがたるみ、目の下の張りが失われ、いわゆる「老け顔」をつくる原因になってしまいます。また、上下の瞼がきちんと閉じられない「不完全瞬目」という状態になると、涙の循環が上手くいかず、ドライアイが起こったりもします。正常な成人では1分間に20回程度のまばたきをしているのですが、回数がこれより少ないと、眼球表面の涙の蒸発が多くなり、ドライアイがひどくなると言われています。簡単なドライアイチェックの方法は、「10秒間、目を開けていられるか」です。たった10秒でも結構キツイ方もおられるのではないでしょうか(…自分もそうです…)。PCやスマホ、ゲーム画面を凝視して、まばたき回数が減ってしまっている現代人はかなり多いようです。しっかり眼輪筋を働かせて、目の表面を潤し、そして目もとの印象をピンと張った若々しいものにして行こうではありませんか。

ということで、最後に眼輪筋のトレーニングをご紹介しておきます。
顔は天井を向き、眼球だけ動かして真下を見た状態から、ゆっくりとまばたきを10回繰り返します。 次に、あごを引いて顔は下を向き、眼球だけ動かして真上を見た状態から、まばたきを10回繰り返します。 もう少し負荷をかけるやり方としては、人差し指で目尻を軽く外側にひっぱっておき、目をぎゅーっと閉じたり(10回)、人差指で上まぶたの中心を引き上げて眉の下あたりで押さえて固定し、目をぎゅーっと閉じたり(10回)すると良いでしょう。まぶたを引っ張っている指が眼輪筋の収縮で引き戻されるくらいに力を込めて目を閉じるようにして下さい。

目もとの筋力低下はたるみの元、筋力低下による目もとの血行不良は、この部分の血液の酸素不足を生み、酸素の少ない青黒い血管が皮膚の下に透けて見えるようになります(これが青グマの正体)。目を集中して使う作業では、意識して休憩を取るようにし、目もとの軽いマッサージや軽いトレーニングを習慣化してみましょうね。それでは、目が疲れてきましたので今回はこの辺で。


<プロフィール>

オークボアツコ

1978年3月生まれ。♀
本職は大学講師・理学療法士。その傍ら、絵の製作活動などやっています。
そんな諸々の素性が重なったご縁で、このたび「筋肉かるた」読み札の挿絵を担当させて頂きました。
趣味はランニングと飲酒を少々。筋トレでなく肝トレに励んでいる日々です。

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