番外編その二:短母指伸筋 & 長母指外転筋

番外編の第2弾、リクエストにお答えしますの回。タイトルを見て何の話かピンと来た方、おられますでしょうか?(画像は「筋ナビ」より)

今日は、いわゆる「スマホ病」のお話。理学療法士をやっていますと、身体に様々な痛みや異変が生じた知人等から、ちょこっと相談を受けることが多いのですが、「親指の付け根から手首にかけての痛み」は、最近増えてるな、と感じる症状なんです。皆さまはスマホユーザーでしょうか?普段、どんなふうに持って、どんなふうに操作しておられますか?特に、両手でなく片手で操作するときです。肘を曲げてディスプレイが見える位置にスマホを構え、手のひらでスマホの背面、小指か薬指でその重量を底辺で支え、親指を駆使して文字入力など行う方がほとんどなのではないでしょうか。もちろんガラケーの場合も似たような手の使い方をしますが、違うのはサイズ感です。一般的なスマホはガラケーよりずっと幅が広く、親指の可動範囲がガラケーの場合に比べてかなり広いのです(フリック入力をする場合は更に)。

毎日ヘビーにスマホ操作をしていると、親指を動かす筋肉に相当な負担をかけていることになります。痛みが出ないかどうか、ちょっとチェックしてみましょう。親指を握り込んだグーの形を作り、そのまま拳を小指側に曲げて行きます。どうですか、引き伸ばされた手首の親指側で痛みが増強するようなことはありませんか?また、触った時に周囲よりも熱い感じがあったりしませんか?これは「ド・ケルバン病」のチェックに用いられる「フィンケルシュタインテスト」です。仰々しい病名ですが、これが俗に「スマホ腱鞘炎」と呼ばれるものに相当します(ド・ケルバンとはお医者さんの名前です)。手首は断面が楕円形をしていますが、その最も親指側を触れてみると、親指を反らせたり外に開いたりする際にピンと力の入る、ギターの弦のような固い組織がありますね。これがタイトルにある短母指伸筋の腱と長母指外転筋の腱(筋肉の端の部分)です。

以前「尺側手根屈筋」の稿でも「腱鞘炎」について取り上げたのですが、腱はその位置がずれないように、また動くとき他の組織に邪魔されずスライドできるように、「腱鞘」というストロー状のサヤの中を通っています。ヒトがケータイやスマホを使い始めたのは進化の過程においてごく最近のこと、そもそもこんなに親指を酷使することは想定外なのです。毎日、狭いサヤの中を、想定以上の回数、腱がスライドする。すると、過度の摩擦により、炎症(痛み・熱感・赤くなる・動かしづらくなる)が生じてきます。炎症は身体からの「ここでマズいことが起こってますよ〜!対処して〜!」というサイレンですから、ここで適切に対処することが最も大切。‘使い過ぎ’が問題なのですから、‘使わない’ことが必要ということです。従って、原則は安静・固定・アイシング。負担のかかる動作を避けること。スマホ中毒で、使わないことに発狂しそうな方は、せめて親指を封印して、両手を使いましょう。

ちなみに、親指や手首だけでなく、スマホの重量を支える小指や薬指に腱鞘炎の症状が出る方もいらっしゃいます。また、スマホのみが原因でなく、パソコン作業等で他の指に腱鞘炎が生じたり、ひどい場合には「バネ指」の状態になる方もおられます。

そうそう、ついでなので、バネ指のお話を。これも「腱鞘」と「腱」の滑走に関連して生じる問題です。特に寝て起きた時、特定の指が曲がったまま伸びない。伸ばそうとすると痛みを伴います。えーっ!?と焦って必死で伸ばそうとギリギリと力を入れると、「パッチン!」バネが急に弾けるように指が伸びます(弾発指とも言います)。自分の指の曲げ伸ばしが思うように出来ない、これは何なんでしょうか?

指の関節を曲げる筋肉の腱も、それぞれの位置がズレずにスライドできるよう、サヤの中を通る構造をしているのですが、度重なるオーバーユースで腱が肥厚したり(分厚く形が変形したり、コブのように腫れたりしてしまうこと)、サヤの組織が肥厚して中の空間が狭まったりすると、指を曲げたときに腱の腫れたところがサヤに引っかかり、ストッパーがかかったような状態になってしまうのです。寝ている時は指を軽く曲げたままの方が多いですが、この指をいざ伸ばすときには、必死で力を入れ、腱の腫れた膨らみがサヤの空洞を何とか「パッチン!」と通り抜けないと指が伸びない状態になってしまうのです。

筋肉や靭帯もそうですが、腱や腱鞘に生じる炎症は、その気配に気づいたとき、必ず早いうちに完全に治してしまわなければなりません。何度も言いますが、痛みが強い場合は、原則、安静・固定です。その間に、どうしてそんな症状が自分に起こったのか、原因を一生懸命に分析してください。身体の使い方が同じままであれば、もし一旦症状が治ったとしても、必ずまた再発します。まだ何十年も使う身体なのですから、もう二度と同じ症状で苦しまないで済むための生活の工夫が必須なのです。

この痛み、全然治らないんだよなあ…と思いつつ我慢しながら、騙し騙し痛みと付き合っているあなた。痛みを完治してしまわなければならない期間の目安は「3ヶ月」です。3ヶ月を過ぎるとそれは「慢性痛」と呼ばれます。何が違うのか?痛みとは「生体からの警告」です。原因を正しく取り除けば痛みは消えるのです。しかし、この期間がいたずらに経過するうちに、脳に「痛み」の神経回路が新しく出来てしまうことが知られています。つまり、原因が取り除かれても関係なく、いつまでたっても痛い、という状態。これは苦しいですよ。治ったはずなのに古傷が痛む、というのはこの慢性痛の一種ですね。

しかも、長引く炎症や微細なダメージの繰り返しは、組織の変形の原因となります。変性・変形してしまった組織は、マッサージや治療器具等で外力を加えても、基本的には元に戻りません。腱鞘炎もバネ指も、ひどい場合は、手術で変形を直す必要性も出てくるのです。

ご自身のスマホの使い方に不安のある方、ちょっと操作頻度や操作の仕方を見直してみてもいいかもしれませんよ!


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