第三十六講:大頬骨筋

突然ですが、読者の皆さまはどちらかというと「童顔」ですか、「老け顔」ですか?また、「表情が豊か」ですか、「表情が乏しい」でしょうか?…「表情」はヒト特有のものですが、ひとりひとり固有の‘よくやっている表情’ってありますよね。例えば、今あなたが最も好意を寄せている人の顔を思い浮かべてみてください。その顔は笑っていますか、不機嫌そうですか、それとも無表情でしょうか?おそらく、何か(喧嘩したばかりだ、とかの)特別な事情がない限り、相手の‘笑顔’を思い浮かべる方が多いのではないかと思います。

ヒトの表情は顔面に多数存在する表情筋の動きで作られ、他者に感情を伝えるための大切な手段となっていますが、中でも、快や好意を表す‘笑顔’は、それを見る人に安心感や心地よさといった心理をもたらします。楽しそうによく笑う人を嫌う人ってあまりいないですよね。「怒れる拳、笑顔に当たらず」…人は例え怒っていても、にこにこと笑う相手を殴る気にはなれないということわざさえあります。

また、笑顔はそれを見る側だけでなく、その表情を作る側にも非常に良い影響があるんですよ。2009年、PLoS One誌に発表された論文で、口で箸を横にくわえさせるグループ(「イー」と発音するような口の形。笑顔に似た表情を作る)と箸の端(笑)を縦にくわえさせるグループ(への字口の状態になる)に被験者を分け、前者で脳内の‘快楽’に関する神経活動が活発化することが報告されているのです。すなわち、楽しいから笑顔になる、だけではなく、強制的にでも笑顔を作りさえすれば楽しい気持ちになる、というわけです。

さて、今回取り上げる「大頬骨筋」は、目じりの横から唇の両端に向かって斜めに走行しており、口角をななめ上に引き上げる、すなわち笑顔を作るための中心的存在です。この大頬骨筋と眼輪筋(目の周りの筋肉)に刺激を与えると、脳がα波(リラックス状態で見られる脳波の波形)を発生するという報告もあるようです。(あ、以前「笑筋」という筋肉もご紹介しましたが、あれは口角を外側に引く動きを担当しています。大頬骨筋と協力してビッグスマイルを作っているわけですね。)ちなみに、笑顔を作ることで体内の免疫細胞が増え、免疫力が上がるという報告も。何だろう、いいことづくしじゃないですか。日々の生活を楽しくポジティブなものにしていくためにも、意識的に笑顔の習慣をつけていくことは重要みたいですね。

しかし、どうとでもとれる曖昧な笑顔を「ジャパニーズ・スマイル」と呼ぶように、私たち日本人は世界的にみても笑顔が苦手な民族とされています。たしかに普段、口角が下がって仏頂面に見える人、多いですよね。私たちは文化的に、あまりオーバーに自分の感情を表出しませんし、そのようにしつけられてきています。表情を動かすための筋肉も、そこへ収縮の指令を送る神経も、ちゃんと生まれ持っているはずなのに、これまでしっかり使ってこなかった部分は上手に発達しておらず、思ったように動かせない方も実際いらっしゃるのです。自分では精一杯の笑顔を作っているはずなんだけど、あんまり伝わらない、とか、無理して笑顔を作ろうとすると顔が疲れちゃう、なんていう方、おられませんか?表情筋だって筋肉ですから、意識的にトレーニングしていけば、ちゃんと鍛えることができます。表情筋が発達してよく動くようになると、血行が良くなりくすみが軽減しますし、その上に貼り付いている皮膚のシワやたるみも防げますから、見た目年齢の若返りにも直結ですよ。

2005年の感性工学研究論文集に、「笑顔のメカニズムの解明」という報告が掲載されていたのですが、それによると、見ている側が‘これは笑顔だな’と完璧に認識できる理想的な笑顔のデザインとは、口を閉じた‘Smile’の状態でいうと、大頬骨筋と笑筋を最大限に収縮させるとともに、その他の表情筋を強く収縮させないようにリラックスさせた状態と言えるようです。また、口を開けて歯を見せる笑顔を‘Grin’と呼ぶのですが、この場合は大頬骨筋と笑筋と、下唇を下に引き下げておく筋(下唇下制筋)を最大限に収縮させるとともに上唇に力を入れすぎないことに注意し、逆三角形状の開口を保つと良いようです。

表情のクセってきっと個々人にあるものなのでしょうが、動かしたい筋肉の筋力が弱かったり動きづらかったりすると、他の表情筋も総動員してなんとか代償しようとするんですよね。そうすると、本来その表情で使うべきではない筋肉まで力が入って緊張してしまうことになり、意図する表情がうまく形成できないこともあるわけです。対面した相手を緊張させないリラックスした笑顔を手に入れるためには、おでこや眉間、目の周りなどの力はできるだけ使わず、しっかりと大頬骨筋と笑筋を選択的に収縮させることが重要になりそうです。

もっとも地道で、でも意識的に自然に行っていけるトレーニングは、やはり「日々の中で、表情筋をしっかり使って大きな表情づくりをしていくこと」でしょう。話をする時も、極力口を大きく動かして喋るといいですよ。人と接する機会が多いかたはぜひ今日から大頬骨筋をバッチリ使って両方の口角を引き上げて笑う、を毎回意識してみてください。産まれてからこれまでの何十年かの表情筋の使い方の積み重ねで、今の皆さんの表情が形作られてきているわけですから、これからの表情筋の使い方次第で未来の表情が変わってくるのです。

あんまり人と話す機会の多い仕事じゃないんだけど…という方、または家でも自主トレやりたいという熱心な方は、鏡の前で反復練習やりましょうか。顔の表情を脱力させたところからスタートしますよ。不必要な部分に力が入らないように気をつけながら、両方の口角をぐーっと上に引き上げて10秒キープします。 これを朝晩10回ずつ。いかがでしょう、普段あまり口元を大きく動かしていない方は、結構疲れるでしょうね。でも、前述の理屈からいうと、やっていくうちに…つまり、大頬骨筋が刺激されていくうちに、脳の中で「快」の神経活動が活発化され、楽しい気分になってくるかも。「笑顔は伝染する」ことを示している研究者もおり、笑顔は自分の周囲の社会に対してもいい相乗効果をもたらすとされています。

かのアンネ・フランクの日記には、「A good hearty laugh would help more than ten Valerian pills.(薬を10錠飲むよりも、心から笑った方がずっと効果があるはずよ)」と書かれています。周りも自分も幸せにするお手軽な、しかもタダでできる健康法。にっこり笑って過ごせる日を意識的に増やしていきたいですね。

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