第三十五講:鎖骨下筋

前回の肘筋に引き続きまして、「なぜ君が選ばれたんだシリーズ」第二弾。今回は「鎖骨下筋(さこつかきん)」です。この筋肉は鎖骨の下に張り付くような位置にあり、三角筋や大胸筋が上から被さっているため、ほとんど触知できない控えめな筋肉です。一番上の肋骨と鎖骨をつなぐように走行しているため、鎖骨を前下方に(胸の中央方向へ)引き下げる作用があります。あんまり意識してやる動きでもないですよね…地味。

また鎖骨下筋は、腕を使う動作の際に、鎖骨と胸骨(ネクタイのような形をした、胸の中央にある平たい骨。ここから左右の肋骨がつながり、胸郭を形成しています)の間の関節「胸鎖関節」がぐらつかないよう安定させておく働きがあります。いわばサポート役かい。これも地味。…いやしかし実は、腕を使う動作の時に私たちの肩甲骨が滑らかに広範囲に動くことができるのは、このサポートのおかげなのです。今日はこのあたりに焦点を当ててみましょう。

ヒトの腕と胴体はどこで連結しているかを考えてみましょう。腕の骨「上腕骨」の頭は肩甲骨のくぼみにはまり込むようにして「肩関節(正しくは肩甲上腕関節)」を作っています。しかし、以前「前鋸筋」の稿で申し上げたように、胸郭と肩甲骨は関節を形成してはおらず、のっかっているだけです。ということは、この肩甲骨が連結し関節を作っているのはどこなのか?これが実は鎖骨なのです(肩鎖関節と言います)。鎖骨を外側へずっとたどって行くと肩先までつながっていますよね。すなわち、私たちの腕は鎖骨を介して胴体(正しくは胸骨)に連結されているのです。

鎖骨の存在意義について普段あまり意識することって無いかもしれませんが、大切な骨なんですよ(ちなみにWikipediaによると、古代中国で囚人が逃げないように身体に穴をあけてココに鎖を通したから、と書かれています…本当かどうかは兎も角、えぐい話…)。そもそもこのような鎖骨は、ヒトをはじめとした霊長類と、マウスやリスなどの小型げっ歯動物、すなわち「手を使う」動物にしかないのです。鎖骨があることで肩関節の位置が胸から離れており、腕を自由に可動できる範囲が広く保たれています。逆に、四足で移動するような動物では鎖骨が退化している(もしくは無い)のですよ。犬や猫を飼ってらっしゃる方は、嫌がられない程度に触診させてもらってみてください。四足動物は地面を素早く駆ける際、後肢で勢い良く地面を蹴り、前肢で着地しますが、胴体と前肢が鎖骨を介して関節で連結されていたりすると、着地の衝撃がモロに脊椎や頭に加わることになります。これを防ぐため、四足動物は前肢自体が胸郭表面をすべるように上下し、衝撃を吸収できているのです。四足動物の肩甲骨の動きってすごく柔軟なんですよ。上半身の骨盤と言っても過言ではないほど丈夫ですしね。その代わり、四足動物には「手」という概念がありませんよね、あれはあくまで「前足」です。四足動物の前足の可動範囲は狭く、例えば大きく外に広げたり、身体の前で何かを抱きしめたりする動きはできないようになっています。

ただし、です。今回のテーマ「鎖骨下筋」について調べてみると、意外にも、‘四足動物では鎖骨下筋が発達している’という表現を見つけました。え、鎖骨ほとんどないのに?と混乱したわけです。でもまあ確かに、四足動物は前肢を筋肉で胴体につないでいるわけですから、発達していても不思議ではありません(鎖骨は退化しちゃってるけど、「この筋肉、ヒトでいうと鎖骨下筋だよね。一緒でいいよね」みたいな名前の付け方なんでしょうかね)。で、実際に過去の研究を探してみると、ありました。「ヤギの筋肉の雄雌差に関する形態学的研究(信州大学農学部紀,1990年)」に、‘ヤギの鎖骨下筋はよく発達しているという過去報告があり、調べてみると特に雄でよく発達していた’なんて記述がありますが、この筋肉自体は、胸骨と、上腕頭筋という筋肉に付着していると書いてあります。やっぱ鎖骨関係ないんじゃん…。

兎も角、ヒトが広い可動域で腕を使用するために鎖骨が重要な役割を担っていることは分かりました。実際、腕を横から大きく外に広げ(=外転)、耳の横まで挙げてくる動きを考えると、肩関節(肩甲上腕関節)のみでその可動範囲が得られているわけではなく、その1/3くらいの可動範囲は肩甲骨が胸郭表面をすべるようにくるりと上方に回旋することで可能になっている動きなのですが、その肩甲骨の動きの最初の30°は胸鎖関節において鎖骨が挙上していくことでまかなわれています。くっきりと浮き出た、ゆるやかにS状カーブを描く鎖骨。女性のセクシーアピール以外にも、鎖骨の動きってこんな重要な役割があったんですね。鎖骨下筋の働き自体は地味ですが、覚えておいてやって頂ければ幸いです。いい機会ですから、今日は自分の鎖骨がどれくらい動くものなのか、動作中にちょっと意識してみるのもいいかもしれませんね。

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