第三十二講:腰方形筋

読者の皆さまは、「体が硬い」方ですか、それとも「体が柔らかい」方ですか?今回の読み札はまず「無理かもね 体硬くてブリッジは…」という文言で始まります。そもそも、「体が硬い」という日本語がどういう状態を表わしているか、根本的な所にちょっと目を向けてみようと思います。

こういう表現を使うとき、私たちは別に「肉質が硬い・柔らかい」ということを言いたいわけではありませんよね(霜降りの高級ビーフじゃあるまいし)。例えばブリッジや開脚、立位からの前屈、背中でナナメに両手の指先を組めるか、ヤンキー座り(足裏を地面につけたまましゃがむ。実際そんな古典的なヤンキーは今どきあまり見ませんが…)が出来るかなど、何らかの動きをしたときの「硬さ・柔らかさ」のことを言いたい場合がほとんどでしょう。

この「体の硬さ」は、「関節の可動範囲が狭い」と言い換えることができると思うのですが、原因は、大きく分けて①筋肉そのものが伸びにくい状態になっている、②靱帯や関節包などの関節構成体自体が硬く変性し、関節自体が伸びない状態になってしまっている、の二つではないかと思います。ちなみに①の筋肉が伸びない状態の中には、緊張が強くて(=何らかの原因で力が入りっぱなしになり、凝り固まったように)伸びにくい状態になっている場合と、ずっと柔軟性を使わずに生活してきたせいで筋肉が「あ、この人、あんまり伸びる必要ないのね」と言わんばかりに短縮してしまっている場合があるでしょう。

体を構成する組織は、筋肉にしても靱帯にしても、ある程度、生まれ持った性質(遺伝)というのはある気がします。ただ、筋肉や靱帯は、もともと持っている「伸びる範囲」を時々フルに引き延ばすような動きをしていなければ、徐々にそれを構成する線維同士の間が結合していってしまい(線維と線維の間が硬い橋で結ばれてしまうような状態となるので‘架橋’と呼びます)、線維同士のすべりが悪くなって短縮し、硬く伸びづらくなってしまうのです。この架橋、困ったことに一度できてしまうと分解するのは非常に難しいため、まずこういうことが起こらないようにしておくことが大切なのです(日常にストレッチを取り入れましょうというのはそのためです。自分の関節の可動範囲をフルに使って生活するというのは、何のスポーツも行っていない場合は、なかなか難しいことですから)。楽な姿勢で行える範囲でだけ生活をして行くと、何十年かかけてゆっくり少しずつ、体の組織は柔軟性を失い、硬くなっていくのです(小学校の頃ってもっと体が柔らかかったでしょう?)。

ただ、仕事や普段の姿勢のクセ等で凝り固まって伸びにくくなっている状態の筋肉は、まだ間に合います。今からしっかり柔軟性を取り戻していきましょう。今回の「腰方形筋」は、ほぼ長方形をしていて、骨盤と腰椎から一番下の肋骨にかけて走行しています。つまり、肋骨から骨盤をぶら下げるように、上部体幹と下部体幹をつないでいる腰の筋肉なのですね。左右どちらかのみ働けば、体を横に倒す(側屈)動きが起こりますし、両側が同時に働けば、腰を反らして上体を後方に倒す動きが起こります。

鏡の前に立ち、わき腹の、ウエストよりも少し低い位置に手を差し込むようにして、左右の骨盤の高さが左右で違わないかをチェックしてみましょう。左右どちらかの腰方形筋に緊張があり短縮している場合、そちら側の骨盤がつり上げられたように高くなっていることがあるのです。最近よく「体の‘ゆがみ’をリセットしましょう」といった言葉を一般によく見かけますが、‘ゆがみ’とは、本来あるべき体のパーツの位置関係が崩れてしまっていることを指します。非常に大雑把に分けると、前後方向に崩れている場合(ストレートネックや猫背、反り腰など)と、脊椎という軸に対してねじれの方向に崩れている場合、そして、左右方向に崩れている場合(肩の高さが違う、骨盤の高さが違うなど)があります。これは、緊張して凝り固まり、縮んだような状態になった筋肉に骨が引っ張られ、かつ、筋力不足の部分は骨を引っ張っておくことができず伸びきるという、全身の筋肉の柔軟性と力の相対的なバランスでいわゆる‘ゆがみ’が生じていくのです(本来はもっと色々と関わりあう要素があるのですが、ここでは説明を省略してお話しています。プロの方々、ある程度ご了承くださいね)。

生まれた当初、私たちの体は基本的に左右対称だったはずで、そこから成長していく段階で、年を経ていく段階で、今の体のバランスが作られてきたのです。原因が自分の‘これまでの年月’にある以上、1回のストレッチで一気に‘ゆがみ’が根本解決したりはしません。自分でも「正しいアライメント」を意識し、クセ付けする習慣が必要です。

それでは、お勤め先でもできそうな腰方形筋のストレッチをご紹介します。あ、タイトスカートをはいておられる方はちょっと難しいかもですが…。椅子に深く腰掛け、右脚だけ椅子の座面の上であぐらをかくように折り曲げます。ちょうど足の裏が左の内腿につくぐらいの感じでしょうか。固定しづらい方は、右足を左腿の下に敷いてもらってもいいかと思います。ここから両手を左斜め前方に伸ばしながら上体を倒していきます。背中を少し丸めるようにすると、ちょうど右腰の後ろがピーンと引き伸ばされるのが実感できるかと思います。息を吐きながら20~30秒、反動をつけずじっくり引き伸ばしてください。姿勢を戻すときはゆっくりと、腰椎を1つ1つ積み上げていくような意識で上体を戻していきます。同様に反対も。左右3回ずつ行ってみてくださいね。腰方形筋の緊張は、腰痛の原因になりやすいことが知られています。同じ姿勢で長時間の座り仕事をされる方などは、年を経るごとに短縮して行きやすいかもしれません。意識的にストレッチしていきましょう。

また、座る際に、骨盤を立てて股関節を直角にして坐骨で座らず、おなかを丸めるようにして尾てい骨あたりを座面に着けた座り方がクセになっている方が時々います(特に若い男性)。骨盤が後ろに傾いた状態になっているので、これを「骨盤後傾位」と呼ぶのですが、この状態で日々過ごしていると、骨盤上縁を肋骨方向に引き上げておく腰方形筋の筋力が使われないため、この部分の筋力低下が生じてきます。そうすると今度は体を反らす動きが筋力不足でうまく行えなくなるばかりか、骨盤を立てた位置で安定に保っておくことが出来づらくなってしまいます。トレーニング方法としては、テレビを眺める感じで横向きに寝そべり、肘をついて頭を手で支え、上体がぐらつかないよう準備します。そしてここから、そろえた両脚を上方に持ち上げます(!)。上になった方の腰方形筋を収縮させる力で両脚の重みを持ち上げるわけですね(ダブルレッグレイズといいます)。フォームが崩れやすいので気を付けてゆっくり行いましょう。持ち上げたら10秒キープして下ろします。腰痛のある方は無理せずに。時間のある時にでも、左右同じ回数、繰り返してみてください。

重たい上半身と、これまた重たい下半身をつなぎ、腰にかかる負担をじっと支える腰方形筋。地味に頑張ってくれている大切な筋肉です。腰は文字通り、体の「カナメ」ですからね。大事に労わって、すこやかな腰を保っていきましょう!


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