第二十五講:咬筋

突然ですが、読者の皆さまは、今この記事を読んでいる時、口の中で上下の奥歯は離れていますか?それとも触れていたり、噛みしめていたりするでしょうか?あまり気にすることもない部分かと思いますが、通常、ヒトの奥歯は軽く開いた状態であるのが普通なのです。一日のうち、上下の奥歯が噛み合わさる時間は、会話や食事の時間をトータルしても10~20分くらいだといいます。こう聞くと、すごく短い気がしますよね。

今回の筋肉は「咬筋(こうきん)」、文字通り「咬む(噛む)」時に働く筋肉で、下顎を上に引き上げる動きを担当しています。頬骨の下あたりからエラにかけての部分にそっと指先を触れ、奥歯をぐっと噛みしめてみてください。収縮して盛り上がる筋肉がありますね、これが咬筋です。顔の皮膚の下には、大きく分けて、表情を形づくるための「表情筋」と、ものを噛む(咀嚼する)「咀嚼筋」の2種類があり、咬筋は最も強い咀嚼筋です。

現代人は加工された柔らかい食品に慣れており、小さい時から硬いものをあまり噛まずに育っているひとも少なくありません。プリンや焼き菓子、ハンバーグ等々、食べやすいよう食材を細かくし、火を通し、柔らかさを追求したメニューの数々…歯を使わなくても口の中で溶けるような食感、それは確かに美味しいのですが、こういったものに慣れきってしまっていると、咬筋の活躍する場がありません。

現代っ子の顎がだんだん小さく、細くなってきているのをご存じでしょうか? これは、硬いものを何度も咀嚼することで発達するべき咬筋の発達が乏しく、結果として、それを支える骨までも「ああ、ここにはあまり強度が要らないんだな」ということで発達してこなかった結果なのです。ヒトの歯の数は決まっているのですが、最近は顎が細いあまり歯が収まりきらず、結果として歯並びが悪くなってしまう子も多いそうですよ。一説には、雑穀などを主食としていた弥生時代、一回の食事での咀嚼回数は4000回、それが現代では620回にまで減ってしまっているそうです。…あれ、620回も噛んでないよっていう方さえ、いらっしゃるかもしれませんね。歯科医さんの推奨する咀嚼回数は一口30回。やってみると、30回も咀嚼を行うためには、ある程度硬さのある食べ物である必要性が実感できると思います。時には意識して、噛みごたえのある食材を取り入れてみるといいかもしれませんね(ちなみに、世界一硬い食べ物は、日本の「鰹節」だそうです。と言っても鰹節かじる必要はないですよ。噛むトレーニングにはスルメあたりが妥当なんじゃないでしょうか)。ヒトの咀嚼力は、思い切り噛みしめた時で自分の体重ほどのkg数があるようですよ。すごいもんですねえ。

エラが張った顔なんて嫌だから、咬筋なんて鍛えなくてもいいわ、という方もいるかもしれませんので補足しておくと、咀嚼することには他の効能もあるんです。食べ物をあらかじめ細かくし唾液とよく混ぜ合わせてから胃に送ることで、消化器系への負担を減らすことができるのです。胃もたれや消化不良を起こしやすい方、早食いの習慣があったりしませんか? また、下顎をしっかり動かすことで脳に送られる血流量が増し、感覚神経もしっかり刺激されるため、脳の働きが活性化することも知られています。顎を動かすことをサボらず、咬筋をしっかり働かせる日常を送りたいですね。

なお、重いものを持ち上げたりする際に「歯をくいしばる」と力が入る気がしますが、歯を噛みしめると瞬間的に全身の筋力が増すことも証明されています。重量挙げなどの競技には有用でしょうね。ただ…、このことは逆に、奥歯をぎゅっと噛みしめている時は、全身の筋肉が緊張状態になりやすいと言い換えることができるかもしれません。冒頭に述べたように、我々の奥歯はリラックス時は軽く開いているのが普通です。それが、ここ最近、常に上下の歯が接している、または噛みしめるように力が入っている人が一定割合いらっしゃるようなのです。白状しますと、ワタシがそうです。気がつくといつも奥歯をかみしめたまま作業をしている。このように、無意識の状態でも上下の奥歯の間に隙間のない状態をTCH(Tooth Contacting Habit)、日本語で「歯列接触癖」といいます。強く噛みしめるわけではなく軽い接触でも、顎関節の筋緊張や疲労の原因となり、持続的な負担が大きいことで、頭痛や肩こりの一因となったり、顎関節症の進行に関わったりするようです。がーん。ワタシ、まさに右顎が顎関節症です… 皆さまは大丈夫ですか?せっかくですから、顎関節症のチェックをしてみましょう。口を大きく開け、指3本がタテにすんなり入るでしょうか。開口する際に違和感や不快感、痛みや異音がしなければオッケーです。え、ワタシですか…開けようとすると、見事に右顎が「カッコン!」と大きい音を立てます…。なんと色気のないことでしょう。うう。

読者の皆さまの中にも、TCHの方がいるかもしれないですね。これはいわゆる癖、習慣化してしまったものですから、意識的にちょこちょこ修正していくしかありません。「リマインダー」を使う方法がおすすめだと感じますので、ご紹介しておきます。無意識の歯の食いしばりは、単純作業、例えばパソコン作業やテレビ鑑賞中などに起こりやすいので、自分が長く時間を過ごす作業環境どこかに、シールか何かを貼り付けておくのです。そして作業中、ふと目を上げた時にでもそのシールが目に止まったら、奥歯が接触していないかチェックする。食いしばっていれば、力を抜いて上下の歯を意識的に離す。余裕があれば、咬筋に指先を当て、ぐりぐりとマッサージしておきましょう。筋肉の慢性的な疲労があると少し痛いかもしれませんので、痛気持ちいいくらいにしておきましょうね。

日本人はどうしても頑張りすぎる、我慢しすぎる民族だと言われることがあります。イヤなこと、苦しいこと、ストレスフルな環境に、歯を食いしばって耐えることが必要な場合もたくさんあるでしょうが、時にはちゃんと身体の力を抜いてあげることも大切です。今回ご紹介したリマインダーは、身体の他の部分の癖の修正にも使っていける方法だと思います。上手に自分の身体とココロを調整して行きたいですね。あと、もしワタシの右顎を治して下さる方がいらっしゃいますたら、どうぞご連絡ください…。←切実。

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