これが本当の健康づくり運動

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第16回 膝関節をひねる大腿四頭筋のストレッチング [前編]

 第1回の「膝の屈伸運動」と第5回で紹介した「ニーストレッチング」で、膝の屈伸運動やニーストレッチングの代わりにお勧めする大腿四頭筋のストレッチングの方法をご紹介しました。そのときには、詳しい実施方法の解説を行わなかったので、改めて、ここで、大腿四頭筋のストレッチングとして、やめたほうがよい実施方法と、お勧めの実施方法を確認したいと思います。

【大腿四頭筋の特徴】
 大腿四頭筋(図1)とは、その名前のとおり、4つの頭を持つ、太もも前面にある骨格筋です。ただし、実際には、股関節付近にある大腿四頭筋の起始部はおおまかには2つの部位にしか分かれておらず、停止部は膝蓋腱1つに集約しており、4つに別れているのは起始部と停止部の途中の骨格筋本体(「筋腹」という)です。
 股関節側では、大腿四頭筋の中の大腿直筋のみが股関節を越えて、骨盤を構成している腸骨に起始しています。残りの中間広筋、外側広筋、内側広筋の3つの骨格筋は、股関節を越えておらず、大腿骨の頸部の根元に起始しています。この特長は、大腿四頭筋を構成する4つの骨格筋を個々にストレッチする際に必要な知識になります。

図1 大腿四頭筋
図1 大腿四頭筋

【細かく言えば(難しいので読み飛ばしてもらってもかまいません)】
 大腿四頭筋の停止部は、4つとも、膝蓋腱に収束し、膝蓋骨を経て、脛骨に停止しています。大腿直筋と中間広筋は、大腿直筋の方が表層にあり、中間広筋は深層にあるという特徴を除いては、両方とも大腿四頭筋の中央にあるため、この2つの骨格筋をストレッチしたい場合は、まっすぐに膝を屈曲させれば良いことになります。もし、大腿直筋を集中してストレッチしたければ、大腿直筋は腸骨に起始部を持つことから股関節を屈曲させる能力も有しているので、膝関節を屈曲させるだけでなく同時に股関節を伸展させるように行う方がより効果的です。これに対して、中間広筋を集中してストレッチしたければ、股関節をわずかに屈曲させて大腿直筋をゆるめてその抵抗を小さくし、膝関節を屈曲すればよいことになります。

【膝関節はまっすぐ屈曲させる】
 外側広筋は、大腿部の外側よりを走行し、膝蓋腱に収束しています。内側広筋は、大腿部の内側よりを走行し、膝蓋腱に収束しています。
 もし、外側広筋の柔軟性が不足していると、膝を屈曲させた際に外側が曲がりにくくなるので、膝頭は内側にずれながら屈曲する可能性があります(X脚のようになる)。内側広筋の柔軟性が不足していると、膝を屈曲させた際に内側が曲がりにくくなるので、膝頭は外側にずれながら屈曲する可能性があります(O脚のようになる)。このような状態を放置していると、日常生活の中で自然に行われる膝関節の屈伸動作や、スポーツの最中に無意識に行われる膝の屈伸動作の際に、膝関節の内側や外側に偏った負担が繰り返し加わって、半月板の片減りが生じたり、大きな力が加わったりした際に半月板が損傷してしまう可能性があります。このため、理論的には、柔軟性が不足している方を集中してストレッチする方がよいことになります。
 しかし、「第4回:ハードラーズストレッチング」や「第5回:ニーストレッチング」で紹介したように、膝をひねるようにストレッチすると、膝関節の左右方向の安定性を保つ役割を果たしている内側側副靭帯や外側側副靭帯(図2)を伸ばすストレッチングになってしまい、逆に膝関節の左右方向の安定性が損なわれてしまう恐れがあります。
 そこで、やはり、大腿四頭筋のストレッチングは、可能な限り膝関節をまっすぐに屈曲させて行う方が安全です。まっすぐにストレッチしても、より柔軟性が劣る部分がよりストレッチされることになるので、外側広筋と内側広筋の柔軟性のアンバランスもそれで解消されるはずです。

図2 膝関節の側副靭帯
図2 膝関節の側副靭帯




<プロフィール>


西端 泉(にしばた いずみ)

川崎市立看護短期大学教授、日本フィットネス協会理事

主な研究テーマ:
高齢者の体力・健康を維持・増進するためのレジスタンス・トレーニング
安全性を優先した健康づくり運動の開発
認知症予防・改善のための運動
発達障害を有する子どものための運動


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